不妊分野での柴苓湯使用について

以前より月経困難症や月経不順、不妊治療において漢方薬の併用は、一般的に行われてきました。不妊治療が保険診療内となったことで、漢方薬併用での治療が増えてきている印象を受けます。そのなかの一つの漢方が柴苓湯です。

≪ポイント≫

柴苓湯は国際的な報告は少ないが、生殖医療分野で使用されている。薬剤性肺障害に注意し、使用することが重要である。

柴苓湯は小柴胡湯と五苓散の合方で12種類の生薬からなる漢方合剤です。作用機序として視床下部一下垂体一副腎系を刺激するという報告や、甘草が肝におけるコルチコステロン代謝を抑制し、ステロイドを増強することで免疫抑制効果、抗炎症効果があるとされています。産婦人科(生殖医療)領域においては、抗リン脂質抗体陽性不育症症例、PCOS症例に使用されることが報告されています。

●PCOS女性における柴苓湯の排卵誘発効果

Machi Okamoto, et al. Reprod Med Biol. 2010 Dec; 9(4): 191–195. DOI: 10.1007/s12522-010-0057-2
24名のPCOS女性に柴苓湯を3ヶ月間投与しました。投与前後に血清LH、FSH、PRL、テストステロン、エストラジオール、ACTH、コルチゾールを測定し、排卵の有無を評価しました。排卵群(n=21)と無排卵群(n=3)、肥満群(n=6)と非肥満群(n=18)で血清LHを比較検討しました。
結果:
PCOS患者24名中21名(87.5%)に柴苓湯3ヶ月間投与したところ排卵が回復しました。
血清LH値、LH/FSH比、FSHは柴苓湯投与後わずか1ヶ月で有意に減少しましたが(P<0.001、P<0.001、P<0.05)、血清テストステロン、PRL、エストラジオール、ACTH、コルチゾールは有意な差は認められませんでした。
柴苓湯投与前後の血清LH値を排卵期群と無排卵期群で比較したところ、LH値は投薬1ヶ月後に排卵群で有意に低下しましたが(P < 0.001)、無排卵群ではわずかに低下しただけでした。非肥満群(94.4%)の排卵率は肥満群(66.7%)よりやや高かったが、有意差はありませんでした。血清LH値は柴苓湯投与後、非肥満群では有意に低下しましたが、肥満群では緩やかな低下にとどまりました。今回の症例では、単一発育卵胞が促され、OHSSや多胎妊娠などの副作用は認めませんでした。

●柴苓湯などの漢方は国際的にはどのような評価をされているか?

Adam H Balen, et al. Hum Reprod Update. 2016 Nov;22(6):687-708.
有名雑誌のReviewにPCOSにおける排卵障害治療の可能性については触れられています。柴苓湯はSakaiらの論文(1999)が取り上げられていて、非対照試験においてアンドロゲンを減少させ排卵誘発が期待できるとされています。ただし、PCOS治療における鍼治療、ハーブおよびハーブ混合物の使用を推奨する十分な証拠はなく、効果は期待できるものの質の高い研究が今後も必要だとされています。

●柴苓湯使用時の注意点

使用するにあたって薬剤性肺障害の注意は必要です。漢方薬による薬剤性肺障害の報告例は1989年の小柴胡湯によるものが最初で,防風通聖散や柴苓湯などでも報告されています。私たちも、不妊症患者で柴苓湯を使用したことにより薬剤性肺障害をきたしたと考えられた症例を経験しています(木寺ら. 日本受精着床学会雑誌 33 (2) 261-265, 2016.)。内服を開始して空咳などの症状がでたら、早めに薬を中止して処方指示医療機関に相談していただくことをお勧めしています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張