帝王切開で子宮内膜症の再発率が上がる?(論文紹介)
「子宮内膜症は帝王切開リスクが上がる」「子宮内膜症の患者は妊娠・出産すると再発率が下がる」というのは、私が産婦人科になったくらいから教わってきました。帝王切開は子宮体下部を切開し胎児を取り出すわけですが、そこから子宮内膜組織が腹腔内にとびだし子宮内膜症リスクを上げないのか?とは以前から気になっていましたが、フォーカスした報告がありませんでした。
子宮内膜症手術後に分娩に至った女性の分娩様式(帝王切開と経腟分娩)による子宮内膜症の再発リスクを評価した報告がイタリアから発表されましたのでご紹介いたします。
≪ポイント≫
子宮内膜症手術後の帝王切開は、経腟分娩に対して2倍高い子宮内膜症再発リスクと関連しています。子宮内膜症の女性は帝王切開リスクが高いとされています。手術・不妊治療・周産期管理は総合病院では一括管理できますが、別々の施設で管理することも少なくなりません。状況に応じて、子宮内膜症女性に対して適切な長期フォローアップを検討していく連携を考えていく必要があります。
≪論文紹介≫
Giovanni Delli Carpini, et al. Fertil Steril. 2022 Dec;118(6):1080-1087. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.849.
2009年1月から2016年12月に子宮内膜症手術を実施し、その後、分娩に至った患者の子宮内膜症の再発率を帝王切開と経腟分娩で異なるかどうかを調査したレトロスペクティブ・コホート研究です。Cox比例ハザード回帰を行い、妊娠後36ヶ月のフォローアップにおける子宮内膜症再発のリスク因子を評価しました。手術はrASRM分類III/IVの女性で腹腔鏡手術を実施した患者とし再発は疼痛+超音波での子宮内膜症性嚢胞などの確認としています。
結果:
子宮内膜症手術後に1回以上の帝王切開の既往がある患者は、経腟分娩の患者よりも子宮内膜症の再発リスクが高く(妊娠後36ヶ月後:51.2% vs. 23.9%)、調整ハザード比は2.25(95% CI, 1.27-3.96)でした。
追跡調査中(妊娠後36ヶ月)、57例(38.5%)で子宮内膜症再発の診断がされています。2回目の子宮内膜症手術が行われたのは17例(29.8%)で、15例(26.3%)は再発に対して内科的治療を受けています。
≪私見≫
子宮内膜症と帝王切開に注目した報告は複数あります。
帝王切開が子宮内膜症再発に及ぼすメカニズムはインプラントか手術刺激による残存病変の増悪かはわかっていませんが、関連することは間違いなさそうですね。
- E. Andolf, et al. BJOG, 120 (2013), pp. 1061-1065
帝王切開の既往がある女性は経腟分娩のみの女性と比較して子宮内膜症のHRが1.8(95%CI、1.7-1.9)と高い。 - X. Liu, et al. Reprod Sci, 23 (2016), pp. 1217-1224
帝王切開の既往がある女性では、子宮内膜症リスクが高い(オッズ比[OR]、2.16;95%CI、1.31-3.55)。 - Bulletti, et al.Fertil Steril, 94 (2010), pp. 850-855
子宮内膜症の手術後に経膣分娩した女性は、妊娠しなかった女性や帝王切開をした女性に比べ、6カ月および12カ月後の子宮内膜症再発リスクが低い(それぞれOR、0.32および0.15)。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。