日本人不妊男性における精子DNA断片化インデックスのフローサイトメトリー解析による評価

Q.精子DNA断片化率で男性不妊症と判断できますか?
A. 日本人でのSperm chromatin structure assay (SCSA)では24%以上だとタイミングや人工授精での妊娠率が悪くなります。

≪今回ご紹介する論文≫

日本人不妊男性における精子DNA断片化インデックスの施設内でのフローサイトメトリー解析による評価
Evaluation of the sperm DNA fragmentation index in infertile Japanese men by in-house flow cytometric analysis

Osaka A et al., Asian J Androl. 2022 Jan-Feb;24(1):40-44.  PMID: 34121749

男性の妊孕能を判断する検査は現在でも精液検査で、精液量や精子数、精子運動率、精子正常形態率といったパラメータがあります。これらの指標は有用ですが、男性不妊かどうかを判定するには十分ではありません。近年、明確なエビデンスはなく、推奨されるまではいっていないのですが、精子DNA断片化を測定する検査が臨床応用されています。精子は遺伝情報をDNAという物質で持っていて、これが壊れている場合があります。こわれていると、妊娠に影響するということが予想できます。精子DNA断片化を測定する方法はいろいろあり上に、カットオフ値をどう設定するかという問題があります。この研究は、比較的広く行われている精子クロマチン構造解析法(sperm chromatin structure assay、SCSA)という方法を使った日本人のデータを獨協医科大学埼玉医療センターのグループが解析したものになります。この検査はフローサイトメータという高価な装置が必要なものの、この装置があれば客観的に精子DNA断片化率を測定できるというメリットがあり、日本でも普及してきています。

≪研究の要旨≫

精液検査は、古くから男性の妊孕能を評価するために行われてきました。近年、いくつかの精子機能検査が開発されています。その中でも、精子DNAの状態を表す精子DNA断片化率(sperm DNA fragmentation index、DFI;DNAが損傷している精子の割合)は、男性妊孕能の評価に適したパラメータであると考えられています。しかしながら、日本人男性の精子DFIに関する大規模な研究は行われていませんでした。そこでこの研究グループでは、フローサイトメトリーを用いた精子クロマチン構造解析法(perm chromatin structure assay、SCSA)を用いた精子DNA断片化測定を行いました。その上で、精子DFI解析についての日本における男性不妊症評価への意義について検討しています。本研究では、743名の不妊症の日本人男性と20名の自然妊娠をえた日本人男性のデータを解析に用いました。精子DFIのカットオフ値を設定するために、ROC解析(受信者動作特性曲線分析、A receiver operating characteristic curve analysis)を用いて、タイミングまたは人工授精によって子どもをもうけることができる男性を同定しました。また、自然妊娠をえたボランティアにおける精子DFIを測定しました。精液検査のパラメータと精子DFIの関係はSpearmanのrho検定で評価しました。精度の解析により、精子DFIの再現性は良好でした。男性因子によりタイミング法または人工授精行ったカップルにおける精子DNA断片化のカットオフ値は24.0%でした。精液量と精子DFIは関連がありませんでした。精子濃度、精子運動率、総運動精子数および精子正常形態率は、精子DFIと有意な負の相関を認めました。精子DFIの中央値は、不妊男性が19.4%で自然妊娠をえたボランティアの7.7%より高値でした。精子DNA断片化の測定により、通常の精液分析では評価できない精子の機能を評価ことが可能であると考えられます。

≪筆者の意見と考察≫

精子DNA断片化率を測定する検査は、世界保険機構のlaboratory manual 第6版でもExtended Exam.として掲載されています。この研究は、日本人での大規模なデータとして有用な研究と思われます。また、男性不妊症かどうかの判断材料にもなる可能性も示されています。SCSAのカットオフ値は、24%でした。従来いわれていたSCSAのカットオフ値が25%でしたので一致しています。これは、タイミングかIUIでの妊娠ができるかどうかの指標で、ROC解析で、感度および特異度はそれぞれ0.816および0.728で、AUC(曲線下面積)は0.842と素晴らしい値でした。独立した因子かどうかの解析がないので、相関のあった精液検査の各パラメータがどうなのか、これに勝るものなのかどうかは分かりません。精子のDFIは一般的には初回精液検査でおこなうまでの推奨はされていませんが、従来の精液検査に限界がある以上今後とりいれる施設がさらに多くなっていくと思われます。もし産婦人科の先生がSCSAで24%を超える値を見た場合、泌尿器科受診や体外受精をうながす判断材料にもなると思います。
我々の施設ではSperm Chromatin Dispersion testという別の方法で、特別な装置が不要な検査でDFIを評価しています。同様の解析ができればよいと思っています。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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