男性パートナーの熱曝露と妊娠させる能力(妊孕能): 妊娠前のコホート研究

Q.男性パートナーは熱暴露に気をつける必要があるのでしょうか?
A.30歳を超えるようであれば、熱暴露の原因はなるべく少なくしておいた方がよさそうです。

≪今回ご紹介する論文≫

男性パートナーの熱曝露と妊孕能: 妊娠前のコホート研究
Male personal heat exposures and fecundability: A preconception cohort study
McKinnon CJ et al., Andrology. 2022 Nov;10(8):1511-1521. PMID: 35924639

精子形成において、精巣の温度は体温よりも低い方が良いことはよく知られた事実です。停留精巣や腹腔内精巣、精索静脈瘤では精子形成が障害されます。一方で、男性不妊症に対するマネジメントにおいて、生活習慣の修正はまだ確固たるエビデンスがないのも確かです。この研究はいくつもの種類と熱暴露と男性の妊孕能(精子数ではなく、妊娠を評価項目としたもの)との関連について検討したもので、男性の妊娠前のケアにつながるものです。

≪研究の要旨≫

これまでいくつかの研究で、特定種類の熱曝露が精液の質に悪影響を及ぼすことが示されています。しかしながら、妊孕能(妊娠させる能力)をエンドポイントとして直接評価した研究はほとんどありませんでしたので、検討したというのがこの研究が行われた背景です。
この研究の目的は、男性パートナーにおける熱曝露と妊孕能(1周期あたりの妊娠率)との関連を検討することで、前向きに評価しました。
対象患者と研究の方法は以下の通りです: 米国またはカナダに居住し,前向きの妊娠前コホート研究(2013~2021年)に登録された3041組のカップルのデータを分析しました。登録時に男性パートナーには、サウナ、熱い風呂(hot bath tub)、シートヒーター、密着した下着の使用などのいくつかの熱関連曝露について回答してもらいました。妊娠状況は,妊娠または打ち切りイベント(不妊治療の開始、妊娠の試みの停止、離脱、追跡不能、12周期)のいずれか先に起こるまで、女性の追跡調査アンケートで8週間ごとに記録が行われました。回帰モデルを用いて、熱曝露と妊娠獲得の関連について解析し、熱曝露と他の潜在的な交絡因子を相互に調整しながら、妊娠率(FR)および95%信頼区間(CI)を推定しました。
結果は以下のようになりました。
サウナの利用、膝の上でノートパソコンを使用する時間、シートヒーターの利用、座っている時間、密着した下着の使用については、ほとんどFRと関連性が認められませんでした。
温水浴槽の使用および登録前3カ月の間の発熱について軽度の逆相関を認めました。

  • 温水浴槽の使用が月0回に対して、月3回以上の場合のFRは0.87 (95%CI:0.70-1.07)
  • 登録前の3カ月の間の発熱なしに対して、ありの場合のFR は0.94 (95%CI:0.79-1.12)
     追跡期間1サイクルでは、FRは0.84 (95%CI:0.64-1.11)

熱暴露の個数(Cumulative heat metric)に基づいて検討すると、個数が増えるほど妊娠する割合は低下する傾向にありました。

  • 熱暴露0個に対して、熱暴露1個のFRは0.99(95%CI:0.87-1.12)
  • 熱暴露0個に対して、熱暴露2個のFRは1.03(95%CI:0.89-1.19)
  • 熱暴露0個に対して、熱暴露3個のFRは0.94(95%CI:0.74-1.19)
  • 熱暴露0個に対して、熱暴露4個以上 のFRは0.77(95%CI:0.50-1.17)

この関連性は30歳以上の男性で強い傾向にありました。

  • 熱曝露0個に対して、熱暴露4個以上 のFRは0.60(95%CI: 0.34-1.04)

結論として、男性の温水浴槽・風呂の利用および発熱は、妊孕能と弱い逆相関を示しました。複数の熱源への曝露が累積すると、特に30歳以上の男性において、妊孕能の低下と関連する傾向が認められました。

≪筆者の意見と考察≫

男性パートナーへの熱暴露と妊孕能の関連性について検討した重要な研究です。有意な差は出なかったものの、やはり熱への暴露はなるべく少ない方がよいこと、とくに30歳を超えた場合は要注意であることが示唆できる論文だと思われます。熱暴露は気にしなくても良いという結果ではないようです。ただご紹介した通り、熱暴露の階層化の仕方もあるのだと思われました。
たとえば、Hot tub/bath useは、月に0回、1-2回、3回以上、サウナは、月に0回、1-2回、3回以上、発熱は摂氏37.8度以上(華氏100度)あったかどうかといった形で分けています。これでは差を出すのは難しそうです。熱暴露があると答えた方の人数が少ないので致し方ないのかもしれません。熱暴露の因子の数でわけると、なしが642名(21.1%)、ひとつが1393名(45.8%)、二つが758名(24.9%)、三つが194名(6.4%)、4つ以上が54名(2.8%)でしたので、症例のかたよりがとても多いことがわかります。このような研究はなかなか難しいようです。日本人にアンケートを取ったら、逆にHot tub/bath useが3回以上にかたよってしまうと思われます。ですので、日本人の場合は、暴露の仕方について、週あたりの回数や、入浴時間も設問に入れるというように工夫をして質問し、研究調査をすることが必要かもしれません。

文責:小宮顕(泌尿器科部長)

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