不良胚を一緒に戻すと良質胚の足をひっぱる?(論文紹介)

不良胚を一緒に移植すると、子宮内膜は不良胚がはいってきたと認識し、一緒に戻した良質胚すらも拒絶するのではないか?という仮説があります。良質胚単一による移植と、良質胚+不良胚による二個移植の生殖成績を比較検討したシステマティックレビューとメタアナリシスをご紹介します。

≪ポイント≫

不良胚を一緒に戻しても臨床成績が低下しないことがわかりました。
良質胚+不良胚による移植と良質胚単一による移植は臨床妊娠率・生児獲得率の増減はありませんが、多胎妊娠率および多胎出生率が高くなることがわかりました。

≪論文紹介≫

Yaling Xiao, et al. Fertil Steril. 2022 Oct 13;S0015-0282(22)01370-X. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.848. 

PubMed、Embase、Cochrane Libraryで、良質胚単一による移植と良質胚+不良胚による二個移植の臨床成績を比較検討した報告を検索しました。全データに対してランダムエフェクトメタ解析を行い、全体の解析を行った後、サブグループ解析(新鮮初期分割期胚、新鮮胚盤胞、凍結融解胚盤胞、胚盤胞の質の統一)を実施しました。主要評価項目は臨床妊娠率としました。
結果:
良質胚単一による移植は17,612 周期、良質胚+不良胚による二個移植は 6,431 周期の17 試験がmeta-analysisを実施しました。良質胚+不良胚による移植と良質胚単一による移植に臨床妊娠率(RR=1.02、95%CI、0.91-1.14)、生児獲得率(RR=0.96、95%CI、0.87-1.07)に有意差を認めませんでした。良質胚+不良胚による移植は、良質胚単一による移植に比べて多胎妊娠(RR = 0.14; 95% CI, 0.09-0.20) および多胎出生率(RR = 0.08; 95% CI, 0.06-0.12) が増加しました。サブグループ解析結果(新鮮初期分割期胚、新鮮胚盤胞、凍結融解胚盤胞、胚盤胞の質(3BBカットオフ))でも同様の結果となりました。

≪私見≫

今回の検討では年齢を加味していません。年齢増加とともに良質胚+不良胚による二個移植は臨床成績の向上につながる報告が2本あります。ただ、多胎率も上昇するので注意が必要です。

  1. 38歳カットオフ:良質胚+不良胚による新鮮二個胚移植は成績改善
    Micah J Hill, et al.Fertil Steril. 2020
    38歳未満の女性では、不良胚を追加すると、出生率が7%増加しましたが、18%多胎児が増加しました。38歳以上の女性では、不良胚を追加することにより、出生率が9%増加し、多胎児が15%増加した。
  2. 35歳カットオフ:良質胚+不良胚による凍結二個胚移植は成績改善
    Wenjie Wang, et al.  Reprod Biol Endocrinol. 2020.
    35歳以上の女性および3回反復不成功女性において出生率を増加しました(48.1% vs. 27.2%、OR:2.56、95%CI:1.3-5.03 および 46.6% vs 35.4%, OR:1. 6、95%CI:1.09-2.35)、35歳未満の女性および反復不成功ではない女性では差がありませんでした(48.7% vs. 43.9%、OR:1.22、95%CI:0.93-1.59、48.3% vs 41.4%、OR:1.33、95%CI:0.96-1.85)。多胎率は年齢、反復不成功に関わらず上昇しました。

文責:川井清考(院長)

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