単一胚盤胞新鮮胚移植の臨床妊娠/生児獲得率は気候に影響を受ける?(論文紹介)

季節によって胚移植成績が変わる印象があるというのは、生殖医療従事者の中では都市伝説にように言われ続けています。過去にも季節変動と生殖医療結果を示した報告は複数ありますが、国内での季節変動によって成績が変動するかどうか示した報告はありませんでした。大阪の生殖医療施設からの報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

新鮮胚移植では気温がやや低い方が妊娠率・生児獲得率が高いこと、湿度・日照時間は関係ないことがわかりました。凍結融解胚移植では季節変動が少ないという報告が複数あることから、母体側の要因である可能性が示唆されます。今回の結果では、子宮内膜厚や精液所見には気候因子は影響を与えませんでした。

≪論文紹介≫

Hiroshi Matsumoto, et al.  J Assist Reprod Genet. 2022 Dec 6.  doi: 10.1007/s10815-022-02668-w. 

555周期の単一胚盤胞新鮮胚移植の臨床妊娠/生児獲得率を調査した報告です。
温度・湿度・日照時間(低気温<12.9℃、12.9℃≦中気温<22.6℃、高気温≧22.6℃、低湿度<62.1%、62.1%≦中湿度<66.5%、高湿度<66.5%、短日照時間<5.2 時間、5.2 時間≦中日照時間<6.7 時間、長日照時間>6.7時間)により層別し、臨床妊娠/生児獲得率を調査しました。多変量解析により、気候条件が胚盤胞到達率、子宮内膜などの影響も調査しました。
結果:
低温度群(48.8%)、中温度群(37.3%)、高温度群(36.6%)で妊娠率に統計的有意差が認められました。患者年齢、BMI、卵巣刺激、子宮内膜厚、胚盤胞グレードを調整すると、気候温度は臨床妊娠率および生児獲得率に関連することがわかりました。気候因子が胚盤胞発育および子宮内膜厚とは関連しませんでした。

≪私見≫

凍結融解胚移植では季節変動が少ないという報告が複数あります。
(Kirshenbaum M, et al. PLoS ONE. 2018、Xiao Y, et al. Arch Gynecol Obstet. 2018、Liu X, et al. Sci Rep. 2019.)
ただし、新鮮胚移植の成績に影響を与える可能性がある卵巣予備能は90日前に平均最高気温が1℃上昇するとAFCは-1.6%(95%CI、-2.8〜-0.4)、30日前では(-0.9%、95%CI、-1.8〜0.1)、14日前では(-0.8%、95%CI、-1.6〜0.0)と減少することがわかっています(Audrey J Gaskins, et al.  Fertil Steril. 2021)卵胞予備能が低下する理由として、ステロイドホルモンの産生抑制、ミトコンドリア障害、活性酸素の上昇などが考えられます。
職業など複数の交絡因子があると思いますが、総合的に判断し治療していくことが必要かもしれません。

文責:川井清考(院長)

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