子宮の水平位は移植成績が悪い(論文紹介)
子宮内膜が画面の深い位置に位置すると、軟部組織における超音波の減衰に伴い診断の正確性と信頼性が低下します。子宮は骨盤腔内に固定されておらず、靭帯や骨盤底筋・筋膜が特定の子宮位置を維持していますので、骨盤底筋群の衰えなどにより子宮が前傾前屈、後傾後屈より水平位に移行していくと言われています。経腟超音波検査によるプローベから子宮内腔中央までの距離を測定し、胚移植成績との関連を示した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
経腟超音波で測定した子宮内腔の検査深度は、体外受精の成功率(臨床妊娠率、着床率、生児獲得率)と関連していました。検査深度が高い群は女性年齢が高く、BMIが高値である傾向がありました。
≪論文紹介≫
Na Zuo, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Nov 25. doi: 10.1007/s10815-022-02657-z.
2018年6月から2020年12月まで凍結胚移植周期を実施した20~45歳の患者を対象とした前向き縦断コホート研究です。経腟超音波検査によるプローベから子宮内腔中央までの平均距離(検査深度)を算出し、検査深度分布の四分位に応じて4群に分けました。移植方法は傾斜角30°の検査台に砕石位で経腹超音波ガイド下で子宮底より10mm手前に移植しました。
結果:
742名の患者が登録され、検査深度の四分位によってグループ分けされました。四分位はQ1: ≤ 1.95 cm, Q2: 1.96–2.16 cm, Q3: 2.17–2.44 cm, Q4: ≥ 2.45 cmとしました。臨床妊娠率、着床率、生児獲得率は4群間で有意に低下しましたが(P < 0.05)、流産率には差がありませんでした。検査深度を連続変数とした多変量ロジスティック回帰分析でも、検査深度は臨床妊娠率,着床率,生児獲得率(臨床妊娠率: aOR,0.549,95% CI,0.380-0.793,着床率: aOR,0.680,95% CI,0.496-0.931,生児出生率: aOR,0.602,95%CI,0.420-0.863) と関連しましたが流産率とは関連しませんでした。
≪私見≫
子宮の向きなどがどのように胚移植成績に影響を与えるのでしょうか。
子宮が前傾前屈、後傾後屈は今回の論文も過去の前向き研究でも胚移植成績に影響をあたえません(Egbase PE, et al. Hum Reprod. 2000.)
胚移植手技のシミュレーションでは、注入された液体は、子宮水平モデル(θ=0°)ではカテーテルによって子宮頚部に引きずられやすいが、子宮傾斜モデル(θ=15°およびθ=30°)では注入した場所から変わらないとされています。(Eytan O, et al. Fertil Steril. 2007.)。
注入した液体・気泡が子宮頚部側に移動すると成績が悪いことがわかっています(Ficicioglu C, et al. Fertil Steril. 2018. Tiras B, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2012.)
胚移植手技は、手技者によって差がでます。経験数ではなく、何を意識して行うかです。当院では胚移植手技は一定数経験を積んだ医師のみが行っており、毎月成績の振り返りを行い、成績が不安定になった場合は指導医と共に再チェックする方針としています。
文責:川井清考(院長)
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