卵巣刺激(FSH vs. FSH+LH)の効果は一緒なの?(採卵後の顆粒膜ルテイン細胞での検証)
調節卵巣刺激を行う際の注射製剤の選び方は、rFSH製剤であってもHMG製剤であっても効果が変わらないというのが一般的な見解です。
こちらは過去のブログでもとりあげました(調節卵巣刺激(卵巣刺激)の注射製剤の選び方)。
ただし、保険診療下において、rFSH製剤が価格帯や自己注射の利便性などの点から普及するなかで、HMG製剤のほうが奏功する症例があるのではないか?という視野も常に必要だと思っています。今回は卵巣予備能にフォーカスしin vitroでFSH製剤とFSH+LH製剤で顆粒膜細胞のステロイド産生シグナルを調べた報告です。
≪ポイント≫
In vitroではありますが、LHは細胞内ステロイド生成経路を活性化するFSHの効力を高め、全群でcAMPとプロゲステロのレベルを全体的に増加させました。ゴナドトロピンの相乗的、非相加的作用が、反応性の低い顆粒膜細胞で起こる弱いステロイド生成シグナルを増強する可能性が示唆されました。
≪論文紹介≫
Samantha Sperduti, et al. Hum Reprod. 2022 Nov 11;deac246. doi: 10.1093/humrep/deac246.
In vitroでFSHにLHを添加すると、hGLCの反応が変化するかを調査した報告です。2017年10月から2021年2月まで、体外受精のために採卵術を実施した286人の匿名女性からhGLCサンプルを採取しました。
hGLCは、盲目的に精製、培養、遺伝子型、高濃度のFSH(nM)±0.5nM LHによってin vitroで処理され、それぞれ3時間および24時間後に生成されるcAMPおよびプロゲステロンレベルが測定しました。In vitro データは、ドナーの卵巣反応に応じて、normal responder(10個以上の回収卵)、sub responder (4-9個の回収卵)、 poor responder(3個以下の回収卵)に事後に層別され、統計的に比較されました。FSHにLHを加えた場合の効果も、同様に全グループでFSH単独で得られた効果と比較されました。
結果:
normal responderの hGLC は、in vitro ではsub / poor responderよりも FSH 処理に対して高い感受性を持つことがわかりました。同じFSH濃度下では高いcAMP(約2.5〜4.2倍)およびプロゲステロンレベル(1.2〜2.1倍)を誘導しました(ANOVA;P < 0.05)。細胞処理にLHを加えることで、cAMPとプロゲステロンレベルで示されるFSHの効能全体が、すべてのグループ内で有意に増加しました。FSH単独で処理したnormal responderのin vitroエンドポイントは、FSH+LH処理下のsub / poor responderのin vitroエンドポイントと同様でした。異なったアレル頻度およびFSHR遺伝子発現レベルに群間差は見られませんでした。FSHにLH を添加するとnormal responderとsub / poor responderの間の cAMP とステロイド産生パターンのギャップを埋める可能性が示唆されました。
≪私見≫
この報告のlimitationでも書かれていますが、in vitroであること、卵巣刺激後に採取した顆粒膜ルテイン細胞であり増殖期の顆粒膜細胞ではないこと、が卵巣刺激のFSH製剤単独もしくはFSH+LH製剤との反応差につながるかどうかはわかっていません。ただし、臨床を行なっているとFSH製剤単独だと反応が乏しくHMG製剤で改善されるかたがいらっしゃるのも経験しますので、大多数の人はFSH単独での卵巣刺激でもいいのですが、症例に応じてHMG製剤を使用した方がよい根拠のひとつなのかなと感じています。
文責:川井清考(院長)
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