フェマーラ(レトロゾール)を用いた人工授精・タイミングに黄体補充は必要?(論文紹介)
体外受精の新鮮胚移植時にはプロゲステロンによる黄体補充の有効性が証明されています。しかし、人工授精・タイミング法での黄体補充の有効性には賛否両論あります。体外受精と違い、卵胞内の顆粒膜細胞を吸引するような操作がない点、エストロゲン濃度を体外受精同様の高い状態にしないため下垂体抑制がない点を考えると黄体機能不全が事前にわかっている症例以外は不要かもしれません。過去の11RCTを検討したmeta-analysisでも卵巣刺激・人工授精後の黄体補充は妊娠率に影響を与えなかったとされています(Green K.A.,et al.Fertil. Steril. 2017; 107 (e5): 924-933)。その一方、PCOS症例やクロミッド治療不成功でのレトロゾール卵巣刺激時の黄体補充が妊娠率改善に奏功したという報告があることも事実です。(Montville C.P., et al. Fertil. Steril. 2010; 94: 678-683、Rezk M,et al.Gynecol. Endocrinol. 2019; 35: 217-219)
今回レトロゾールを用いた人工授精・タイミングにプロゲステロン膣剤を用いて十分に黄体補充をおこなうと妊娠率改善につながるかどうかを調査した報告をご紹介いたします。
≪ポイント≫
膣内プロゲステロン製剤による黄体補充は、レトロゾールを用いた卵巣刺激周期における人工授精・タイミング法の妊娠率を改善することはなさそうです。ただし、PCOS症例やクロミッド治療不成功でのレトロゾール卵巣刺激時の黄体補充が妊娠率改善に寄与したという報告もあり、症例ごとに検討されることが現段階では妥当と考えられます。
≪論文紹介≫
Elizabeth Dilday,et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI:10.1016/j.rbmo.2022.09.012
2018年1月から2021年10月までに人工授精もしくはタイミング法をレトロゾールによる卵巣刺激を受けた患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。主要評価項目は臨床妊娠率で、プロゲステロンサポートがあるかないかで比較検討しました。単変量ロジスティック回帰、女性年齢、BMI、AMH、排卵障害、複数発育卵胞があったかどうかなどを含む多変量解析もおこないました。
結果:
273人492周期のレトロゾール卵巣刺激周期を対象としました。これらのサイクルのうち、387周期(78.7%)が黄体サポートに膣内プロゲステロン製剤を使用し、105周期(21.3%)は使用していませんでした。1周期あたりの臨床妊娠率はプロゲステロン使用時11.6%(45/387)、プロゲステロン未使用時13.3%(14/105)でした(P = 0.645)。女性年齢、BMI、AMH、排卵障害、複数発育卵胞などの重要な共変量で調整した後、臨床妊娠のオッズは外因性プロゲステロンを用いた周期で有意に改善しませんでした(OR : 1.15, 95%CI: 0.48-2.75, P=0.762)。生児獲得率は外因性プロゲステロン使用ありで10.7%(41/384)、使用なしで12.5%(13/104)でした(P = 0.599)。
今回の症例は35歳前後、BMI 25前後、排卵障害が40-50%前後の女性を対象としています。14mm以上の複数発育卵胞があった症例が全体の45-52%となっています。刺激方法はレトロゾールを内服し、発育卵胞が20mmになったらhCG10000単位もしくはオビドレル250ugを使用34-36時間後に排卵と見立てています。運動精子数500万以下の症例は除外して検討されています。
≪私見≫
当院でも人工授精後に黄体補充を行うかどうかは、患者様の病態や過去の不妊治療歴、当院の成績をふまえて、判断しています。私たちの施設では一般不妊反復不成功の患者様には黄体補充を行うことが好ましいのではないかと現段階では考えていますが、国内の薬の供給の状況を見据えて判断しているのが実情です。
文責:川井清考(院長)
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