妊娠中期にhCG値が高いと妊娠高血圧腎症発症リスクが高いという報告が複数あります。（16-18週：Panwarら, 2019、15-20週：Zhengら, 2016、meta-analysis：Zhangら, 2021）
妊娠高血圧腎症だけでなく、small for gestational age（SGA）児や子宮内胎児発育遅延（IUGR）などの周産期合併症は、胎盤形成過程の異常に由来する結果であると考えられています。受精卵の胚の浸潤の初期段階で妊娠高血圧腎症リスクをスクリーニングできないかどうかを検討した報告です。

≪ポイント≫

胚移植後の妊娠判定hCGが高すぎると妊娠高血圧腎症の発症リスクとなる可能性がある。

≪論文紹介≫

Anna Aulitzky, et al. Reprod Biomed Online. 2022.  DOI: 10.1016/j.rbmo.2022.10.007

2014年から2019年に体外受精（単一胚移植）を実施した18～45歳の女性3,448人の女性で、妊娠に至った614人（生児出産　423人）を評価し、280人の妊娠・出産情報を解析した後方視的コホート研究です。胚移植後の4週2日相当のhCGを測定し、胎盤形成不全に関連する周産期合併症との関連を比較検討しました。
結果：
妊娠判定後4週2日相当hCGが最高5分位の女性は、年齢、BMI、既往出産歴、胚移植方法を調整しても、hCGが低い女性よりも妊娠高血圧腎症の発生率が高くなりました（OR 4.08 ；1.41-11.82) 。胚移植時の胚のステージを調整しても結果は変わらず高いままでした（OR 3.97 ；1.37-11.46) 。胎児発育不全との関連はみとめられませんでした。

≪私見≫

生殖医療の妊娠判定を血中hCGで測定することが一般的になっていますが、周産期合併症のリスク因子抽出に役立てたら、とても良いですね。妊娠高血圧腎症予防にアスピリンを16週以前から内服させることで発症リスクを最大50％減らせるとされていますので、うまく活用できればと考えています。
妊娠初期でのhCG値と妊娠高血圧腎症との関連に否定的な報告もありますので、今後も注視したいと思います。

妊娠判定hCGは上記以外にも下記理由で変動するとされています。交絡因子の存在も考えながら、様々な角度から判断していくことが大事ですね。

妊娠判定のhCG評価では下記の報告がされています。
・新鮮胚移植では分割期胚より胚盤胞移植の方が高く出る。
・胚盤胞移植では新鮮胚移植より凍結融解胚移植の方が高く出る。
Oron, G, et al. Fertil. Steril. 2015. 103, 1526-1531.
Oron, G, et al. Reprod. Biomed. Online. 2017.  35, 272–278.
・女性BMIが高いとhCGが低く出る。
Brady, P.C.,et al. J. Clin. Endocrinol. Metab. 2018. 103, 4209–4215.
Donovan, B.M.,et al. PLOS ONE. 2018. 13, e0201319.
Mejia, R.B.,et al.Fertil. Steril. 2018. 110, 1311–1317.

文責：川井清考（院長）

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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