帝王切開既往は子宮内腔液がたまっていなければ凍結融解胚移植成績に影響を与えない(論文紹介)

既往帝王切開は続発性不妊の原因になる可能性がありますが、体外受精を行っている患者に対してはどうでしょうか。帝王切開既往があり、子宮腔内に分泌物が溜まっていると(ICF: intracavitary fluid)、着床を妨げる影響がありますが、現在まで条件を整えて既往帝王切開が体外受精の着床障害になるかどうかを比較検討した報告がありませんでした。帝王切開既往があるけれどICF貯留がない場合に正常核型胚を凍結融解胚移植した場合に妊娠率に影響を与えるかどうか検討した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

既往帝王切開は子宮腔内に分泌物がたまっていなければ、凍結融解胚移植の治療成績を落とす要因にはならなさそうです。

≪論文紹介≫

Asina Bayram, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Oct 3.  doi: 10.1007/s10815-022-02627-5.

着床前検査を実施し正常核型胚の凍結融解胚移植を1回以上の帝王切開もしくは経膣分娩既往がある女性を対象に実施し、臨床成績・リスク因子を検討したレトロスペクティブ研究です。
結果:
412の正常核型胚の凍結融解胚移植周期を対象としました。平均年齢34.5歳、42.48%の女性に帝王切開既往がありました。胚移植成績は臨床妊娠69.42%、生児獲得率60.19%でした。妊娠検査陽性率(4w1d hCG 15IU/ml以上),臨床的妊娠率,生児獲得率は,帝王切開既往により有意差はありませんでした。(それぞれp=0.6/0.45/0.94)。生児獲得率は、ETカテーテル上の粘液の存在(OR:0.413、p=0.010)、BMI(OR:0.946、p=0.006)、複合胚品質(胚品質fair: OR:0.444、p=0.001、胚の品質が低い。OR:0.062、p<0.001)、HRT周期(OR:0.609、p=0.023)となりました。
内膜作成方法
HRT周期:内膜厚が基準値を設けていないがプロゲステロン膣剤(300mg/day)を投与して120時間後に胚移植を実施
排卵周期LH上昇後翌日に、E2濃度の低下とP4濃度の1.5ng/ml以上の上昇で排卵を確認し(0日目)、その夜からプロゲステロン膣剤を開始し120時間後に胚移植を実施。

≪私見≫

帝王切開後、私たちは切開層の残っている厚みを評価し、子宮破裂のリスクを検討する習慣がありました。帝王切開後の妊娠率を評価する観点からは、帝王切開部の凹み(istmocele:帝王切開瘢痕部にある深さ1mm以上の形状と定義)が重要のようです。Istmocleがあると卵巣刺激中にICFが発生するリスクが40%程度あるため、胚のattachment、apposition に障害を与える可能性があります。現在のところ、ICFが貯留している場合への対処法は定まっていません。外科的切除、移植手技前のICF吸引、内膜作成法の工夫などが治療手段として考えられています。科的矯正などの異なる治療オプションが検討されています。
内膜作成法で、排卵周期の成績が高いのは必要以上にE2濃度が上がらないせいなのでしょうか。興味深い結果です。

文責:川井清考(院長)

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