妊娠前に自身の鉄欠乏を知っておこう(ライフスタイル・プレコンセプション)
貧血が出現する前に鉄欠乏状態を評価し、治療することが大事であるとされています。非妊娠生殖年齢女性の鉄欠乏の原因である過多月経や鉄摂取不足を含めて管理していくことで、生活の質を向上させ、妊娠時の周産期予後(胎児死亡、低出生体重児、早産、新生児や母親の死亡、不必要な輸血)が改善できるためです。
鉄は、酸素運搬、DNA合成、代謝、細胞呼吸など様々な生命維持機能に関わる必須元素です。しかし、鉄が過剰になると、活性酸素が発生し、酸化ストレス、脂質過酸化、DNA損傷が起こり、細胞死が促進されます。体内の鉄バランスを良く把握しておくことが大事です。
鉄サプリメントなどの過剰摂取を行わない限りは、過剰が問題になることは少なく、基本は欠乏状態が問題となります。
世界保健機関(WHO)によると、貧血と定義として、非妊娠時成人女性:ヘモグロビン値12gm/dL未満、妊娠女性:ヘモグロビン値<11gm/dLと定義しています。貧血がないから大丈夫というわけではありません。貧血でなくても鉄欠乏状態がつづくと、月経時の出血や妊娠時の鉄需要の増大などにより鉄欠乏性貧血に移行してしまいます。
鉄は過剰にとることは良いことではありませんが、鉄欠乏状態(肝臓、脾臓、骨髄などでの鉄貯蔵量の減少)は回避しておくことが好ましいとされています。
ヘモグロビンは「貧血」、血清フェリチンは「炎症状態のない場合の鉄貯蔵量」、血清中鉄飽和度は「赤血球生成に利用できる鉄」を表すと考えます。
フェリチンは鉄の貯蔵量に比例するとされて良く鉄欠乏状態を診断するために測定されるマーカーです。血清フェリチン値30μg未満をカットオフとすると92%の感度と98%の特異度を示すとされています。
血清フェリチンは、炎症状態(感染症、自己免疫疾患、癌、慢性腎臓病、慢性心不全、肥満など)により高値をしめすこともありますので、補助診断に血清中トランスフェリンを反映する総鉄結合能(TIBC)、血清中鉄飽和度(%)(=血清鉄/TIBC×100)などを追加で測定することもあります。まれにですが、再生不良性貧血や溶血性貧血、白血病などがみつかることもありますので、総合的に判断していくことが重要です。
国内では血清フェリチンの明確な基準がありませんが、国内女子大学生1401名を対象に実施した報告では鉄欠乏性貧血者(ヘモグロビン値:12gm/dL未満)は 5 %程度であったのに対し、血清フェリチン低値(血清フェリチン値:12μg未満)の鉄欠乏は25%程度みられたことが報告されています(北川元二ら,2019年)。血清フェリチン値30μg未満には食事指導からはじめ、12μg未満をきってくるようだとサプリメントや薬剤摂取を考えるようにしています。
鉄欠乏の原因は多岐に分かりますが、メインは摂取不足と妊娠前は出血、妊娠中は需要の増大です。鉄は 1 日の食事中に平均 20mg 含まれており、 そのうち約 1mgが十二指腸(空腸上部を含む) より体内に吸収されます。 これにより、消化管や皮膚の上皮細胞の脱落による 鉄の喪失(約 1mg/日)を補っています。
血液中には1mL中に0.5mgの鉄が含まれていて、一回の月経量20-140mLを考えると月経中には鉄10-70mgが喪失されることになります。
食事に含まれる鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄があり、ヘム鉄は肉類などの動物性食品に多く含まれ、体内への吸収率は約10~30%、非ヘム鉄は緑黄色野菜など植物性食品に含まれ吸収率は約10%とされています。まずは食事で摂取し、欠乏状態が続くようであればサプリメントや薬剤での摂取を検討してくことが大事であると考えています。
どれくらい鉄を摂取すればいいかですが、月経のある女性の推定平均必要量=(基本的鉄損失+月経血による鉄損失(0. 55 mg/日)÷吸収率(0. 15)とし、推奨量は推定平均必要量の1.2倍と計算しています。
生殖年齢女性では、鉄推定平均必要量 8.5-9.0mg/日、推奨量 10.5-11 mg/日としています。過多月経女性の場合は推定平均必要量 13 mg/日以上、推奨量 16 mg/日以上を鉄欠乏の状態を加味し摂取を検討していきます。
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0529-4ah.pdf
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』という海外文献を参考としたサイトがありますので参考になさってください。
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/07.html
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。
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