将来こどもが欲しい人たちに何を・いつ・誰に情報提供していくの?
プレコンセプションケアが様々なところでトピックスになっています。
「IVF cannot work miracles.(体外受精は奇跡を起こさない)」から妊娠について知っておくことで回避できる問題もあるんです。
何を知ってもらうべきか、いつ伝えるべきか、誰に伝えるべきかという課題はとても大事な問題だと考えています。
□何を知ってもらうべきか
●女性の妊娠できる力は35歳から著しく低下します。貯蔵されている卵子数も37歳までに90%がなくなります。男性は思春期から一生精子を作り続けますが、年齢と共に精子の質は低下していきます。
●女性は月に1回、1個の卵子を排卵し、男性は1回の射精あたり1億個の精子を排出します。自然に生涯で排卵する卵子数は500個前後とされています。
●女性も男性も、妊活前にできるだけ健康である生活を心がけましょう。健康的な体重、禁煙、アルコールとカフェインの制限、定期的な運動は、妊娠できる力を高めるだけではなく、産まれてくる子供の長期的な健康にも影響を与えることがあります。
●妊娠可能性な期間は、「排卵日の約5日前から排卵日」です。この期間にたくさんセックスをすることで、妊娠の可能性が高まります。
●妊活は年齢が大事です。妊娠することだけを考えると早めに始めることが大切です。30歳未満の女性が毎月妊娠する確率は約20%ですが、40歳では約5%に下がります。男性が45歳以上の場合、流産や自閉症などの特定の疾患のリスクが高まるとされています。
●ほとんどの人が妊活をはじめて1年以内に妊娠しています。12ヶ月以上(35歳以上の女性なら6ヶ月以上)妊活をしても妊娠しない場合、不妊症リスクがあるので早めに医師に相談しましょう。
●カップルの性感染症や生活環境、女性のPCOS・子宮内膜症・排卵障害、男性の思春期以降のおたふくかぜ、停留精巣など事前にわかっている既往歴が生殖能力に影響を与えることがあります。心配な場合は、主治医に相談しましょう。
●体外受精は奇跡を起こすことはできません。体外受精を1回行って赤ちゃんを授かる確率は、35歳以下の女性では約30%ですが、40~44歳では約10%、45歳以上ではほとんどゼロになります。
●不妊治療は、不妊カップルだけではなく、同性カップル、独身者が子供を授かる選択肢になります。地域ごとに利用可能な選択肢を確認しましょう。
私たちも数多く情報提供を行っていますが、こちらがまとまっていて読んでいてスッキリしました。妊活に知っておきたい9つのポイントを参考にしました。同性カップルや独身者が子供を持ちたい場合についても触れられていて、国内よりも議論が進んでいるなと改めて感じます。こちらのポスターは2020年に作成されています。
https://fertilityeurope.eu/fertility-education-posters/
そのほか、成育医療センターが出しているプレコン・チェックシートも参考になります。https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/preconception/pcc_check-list.html
□いつ知ってもらうべきか
若いうちから情報提供するということも大事かもしれませんが、自身の問題と考えられる世代になってからがよいかと思います。下記の報告でも「妊活情報を提供することで、成人形成期(21-24歳)の妊活知識を高めるが、青年期(16-18歳)には妊活特有の情報に対して知識向上には効果が乏しい傾向がありました。ただし、妊活情報の提供は、青年期、成人形成期ともに、不妊の不安を高める可能性があることがわかりました。」。やはり若いひとには性教育は大事だと感じますが、妊活に関する知識を提供することが、どれほど意味があるかわかりません。
J Boivin, et al. Hum Reprod. 2018 Jul 1;33(7):1247-1253. doi: 10.1093/humrep/dey107.
中高生と大学生が情報提供前のアンケートに回答し、コンピュータを介して実験グループにランダムに割り当てられ、不妊治療情報(妊活教育グループ)または健康な妊娠についての情報(正常妊娠教育グループ)を読み、情報提供後のアンケートに回答してもらっています。16-18歳(青年期)、21歳24歳(成人形成期)で子供がおらず、妊娠を今すぐは希望していないが、将来子供がもつ意志がある男女を対象とした。情報提供前後でアンケートを実施しました。
255人の対象者のうち、208人(n = 93青年期、n = 115成人形成期)が参加しました。妊活教育グループには妊活(例:男性と女性が最も妊娠しやすいのはいつか)に関するオンライン情報、正常妊娠教育グループには国民保健サービスの妊娠に関するオンライン情報が配布されました。情報提供前後にアンケート(不妊に関する知識、不妊リスクの認知、不安、身体的ストレス、妊活計画)に回答しました。
妊孕性情報は「成人形成期」にのみ妊孕性知識を有意に増加させ(P < 0.001)、「成人形成期」と「青年期」には不妊リスクを有意に増加させました(P = 0.05)本調査への参加は、不安感の増加と関連しましたが、身体的ストレス反応の減少がみとめられました。「青年期」の方が「成人形成期」より楽観的な妊活イメージをもっていました。
□誰に知ってもらうべきか
国内の報告ですが、「不妊教育を行うと2年後でも知識向上につながっていることがわかっています。また、不妊教育介入をおこなった時点でパートナーがいる男女は早く子供が授かることがわかっています。」これらのことを考えると、プレコン導入も身体の状態を把握し安心できるお産の準備という意味では早い年代でいいですが、妊活を始める前の不妊スクリーニングを兼ねた意味合いではパートナーができて子供を将来考えたいなと思った時期でもいいのかもしれません。もちろん早いに越したことはないと思っています。
Eri Maeda, et al. Hum Reprod. 2018 Nov 1;33(11):2035-2042. doi: 10.1093/humrep/dey293.
オンラインの社会調査パネルで募集されたRCTです。妊活知識提供群(介入群)、妊娠前の健康知識提供群(妊娠中の葉酸摂取、コントロール群1)、日本の家族政策(保育の提供、対照群2)の3つの情報パンフレットのうち1つを受け取る前(T1)と受け取った後(T2)、2年後(T3)に同じ参加者を対象に実施しました。
T1参加者(n=1455)のうち、男性383名、女性360名(51%)がT3調査に回答しました。反復測定分散分析の結果、妊活知識提供群(介入群)ではT1からT3にかけて知識が増加しましたが(男性: 11.2%、女性: 7.0%)、コントロール群とは差は認められませんでした。2年後までの間に出産をしたり、不妊治療を開始したりするところに差が認められませんでした。サブグループ解析の結果、妊活知識提供群(介入群)ではパートナーのいる人の出産時期が早まっていました。情報提供前にパートナーがいる参加者は、情報提示後1年以内に出産した人の割合が、妊活知識提供群(介入群)がコントロール群1(妊娠中の葉酸摂取)よりも高くなりました(男性: 8.8% vs. 1.4%; P = 0.09、女性: 10.6% vs. 2.3%; P = 0.03)(adjusted OR男性: 7.8, 95%CI 0.86-70.7、女性: 5.2, 95%CI 1.09-25.0)
妊活知識提供群(介入群):不妊の定義、有病率、原因、女性の妊孕性が低下する年齢、男性の不妊、妊娠可能期間のタイミング、妊孕性低下のリスク(性感染症、不健康な体重、喫煙や飲酒など)
妊娠前の健康知識提供群(妊娠中の葉酸摂取、コントロール群1):妊娠中の葉酸の摂取について、その効果や適切な摂取量(量、時期)など
日本の家族政策(保育の提供、コントロール群2):妊娠・出産時の政府による経済的・社会的支援に関する情報
文責:川井清考(院長)
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