軽度子宮内膜症にウルトラロング法は有効?(論文紹介)
「子宮内膜症患者にはウルトラロング法は有効」という考えは生殖医療医師従事者の多く感じていることです。ただし、長期間卵巣刺激に時間を要することなどから第一選択から外されることが多いのも実情です。
ESHRE2022では子宮内膜症患者へのウルトラロング法の有効性が疑問視される方向となりました。この結果に導いた論文をご紹介いたします。こちらの報告には鳥取大学が参画しています。このような仕事に国内からのメンバーにはいっていること本当に素晴らしいですね。
≪ポイント≫
軽度子宮内膜術後ではウルトラロング法を行うと卵胞中の炎症状態は改善され受精率上昇に寄与しますが、その後の臨床成績の改善につながりませんでした。
≪論文紹介≫
Apostolos Kaponis, et al.Fertil Steril. 2020 Apr;113(4):828-835. doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.12.018.
腹腔鏡手術で軽度子宮内膜症と診断された患者が、ウルトラロング法によって治療効果が変わるかどうか調べた前向きRCTです。3つの生殖医療施設で軽度子宮内膜症群400名(ウルトラロング法群: 200名、ロング法群: 200名)、コントロールとして卵管水腫がない卵管因子群200名を対象としました。評価項目はTNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-1receptor antagonistの卵胞液濃度、受精率、着床率(4週3日前後)、胚質、臨床的妊娠率(妊娠9週で心拍陽性)としました。
結果:
ウルトラロング法群では卵胞液サイトカイン濃度が減少しました。軽度内膜症のロング法群は、ウルトラロング法群(72.7;95%CI、70.50-74.90)および卵管性不妊群症(74.7;95%CI、72.00-77.24)に比べて受精率(61.7;95%CI、59.20-64.20)の低下がみられました。胚質・着床率・臨床妊娠率は、ウルトラロング法群ではロング法群と比較して改善を認めませんでした。
補足:
術後内膜症性嚢胞が2cm以上あった症例と男性不妊が除外されています。
ウルトラロング法群は、GnRHagonistデポ製剤3.75 mgを3回実施しています。ロング法群は術後 1.9±0.7ヶ月で採卵を実施しています。卵巣刺激はrFSH 150単位で実施。
参考値としてそれぞれの胚質・着床率・妊娠率は以下のとおりです。
2日目胚質
ルトラロング法群:24.5、95%CI、21.50-27.50
ロング法群:21.6、95%CI、18.80-24.40
卵管不妊群:26、95%CI、22.70-29.30
着床率
ウルトラロング法群:18.4%、95%CI、14.6%-22.2%
ロング法群:17%、95%CI、13%-21%
卵管不妊群:19.3%、95%CI、15.5%-23.1%
≪論文紹介≫
内膜症患者で腹腔鏡を事前に行っている軽度内膜症患者にはウルトラロング法は不要なようです。ただ、内膜症の重症度が高い方、反復不成功である方にはウルトラロング法は卵胞内炎症環境を改善するのは間違いなさそうなので試行する価値があるかもしれません。
先日取り上げたESHRE2022 子宮内膜症ガイドラインでウルトラロング法の是非について取り上げられていたメタアナリシスです。
Xue Cao, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2020 Feb 29;18(1):16. doi: 10.1186/s12958-020-00571-6.
21 件を対象とし、RCT とnon- RCT 研究にわけて解析を行なったメタアナリシス。RCT研究において、ウルトラロング法は臨床妊娠率を改善した(特にステージIII-IVの重度子宮内膜症患者)(RR = 2.04, 95% CI: 1.37~3.04, P < 0.05 )。Non-RCTまで含めると成績改善効果が認められなかった。
Ektoras X Georgiou, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Nov 20;2019(11):CD013240. Doi: 10.1002/14651858.CD013240.pub2.
640名の参加者を含む8件のRCTを対象としたメタアナリシス。
ウルトラロング法とアゴニスト法前治療なしとの比較
ウルトラロング法 vs. 標準アゴニスト法は下記の通り。効果不透明。
出生率(RR 0.48、95%CI 0.26~0.87;1RCT、n = 147)
全合併率(Peko OR 1.23;95% CI 0.37;~4.14;3RCT、n = 318)
臨床妊娠率(RR 1.13、95%CI 0.91~1.41;6RCT、n = 552)
流産率(Petro OR 0. 45、95%CI 0.10~2.00;2 RCT、n = 208)
平均卵母細胞数(MD 0.72、95%CI 0.06~1.38;4 RCT、n = 385)
平均胚数(MD -0.76;95% CI -1.33~-0.19;2 RCT、n = 267)
文責:川井清考(院長)
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