ホルモン補充周期凍結融解胚移植の移植日プロゲステロン値は治療成績に影響する?(論文紹介)

以前はホルモン補充周期凍結融解胚移植の移植日プロゲステロン値は治療成績に関係ないと言われていましたが、最近では一定レベルのプロゲステロン値が維持されることが成績に影響することがわかっています。ホルモン補充周期凍結融解胚移植において、着床率・初期流産率・生児出生率を報告した論文をご紹介いたします。

≪ポイント≫

報告者らは移植日当日の血清プロゲステロン濃度が9.8 ng/mlを下回った場合、初期流産率が上昇し、結果として生児出生率が低下することを示しました。

≪論文紹介≫

Chloé Maignien, et al.  Reprod Biomed Online. 2022 Mar;44(3):469-477. doi: 10.1016/j.rbmo.2021.11.007

プロゲステロン腟剤(ウトロゲスタン)によるホルモン補充周期下(HRT)凍結融解胚移植を実施した43歳未満の女性患者(n=915)の観察的コホート研究です。
2019年1月から2020年3月までに患者につき、1回のみのHRT凍結融解胚移植を対象としました。エストラジオール投与10-14日後、子宮内膜の厚さが6mm以上、血清プロゲステロン濃度が1.5ng/ml未満の場合、凍結胚移植を予定しました。血清プロゲステロン濃度は、胚移植の朝(腟剤投与後1-4時間)に測定しました。胚移植は胚盤胞移植(Gardner分類でCCは移植対象胚から除外しています)主要評価項目は、妊娠22週以上での生児出生と定義しました。統計解析には一変量および多変量ロジスティック回帰モデルを使用しています。
彼らは黄体補充を妊娠12週まで継続しています。
結果:
胚移植当日の血清プロゲステロン濃度の中央値(25〜75パーセンタイル)は12.5ng/ml(9.8〜15.3)であった。生児出生は全体で31.5%(288/915)でした。プロゲステロン濃度25%以下(9.8ng/ml以下)をカットオフとし比較したところ、カットオフ値以下では着床率に差はなく(9.8ng/ml以下vs. 9.8ng/mlより高値: 40.7% vs. 44.9%)、初期流産が高く(9.8ng/ml以下vs. 9.8ng/mlより高値: 35.9% vs. 21.6%、P = 0.045 )、結果として生児出生が低くなりました(9.8ng/ml以下vs. 9.8ng/mlより高値: 26.1%対33.2%、P = 0.045 )。多変量解析で潜在的交絡因子を調整した後でも、血清プロゲステロン濃度が低い(≦9.8 ng/ml)ことは依然として生児出産の低下と関連していました(OR 0.68 95% CI 0.48~0.97 )。

≪私見≫

研究間でプロゲステロンのカットオフ値が研究集団の違い、測定方法の違い、投与から血液検査までの時間間隔、プロゲステロン製剤の違いなどありますが、いずれにしても、移植当日の妊娠転帰と有意に関連するプロゲステロンの下限値は、約10ng/ml前後でありそうです。

プロゲステロンのカットオフ
Labarta, et al. 2017;9.2ng/ml(提供卵子:ウトロゲスタン400mg 2回)
Labarta, et al. 2020;8.8ng/ml(自己・提供卵子:ウトロゲスタン400mg 2回)
Alsbjergら、2018;11.0ng/ml(自己卵子:クリノン90mg 3回)

血清プロゲステロン値が人によって異なる理由はわかっていません。体重は薬物の吸収、分布、代謝及びクリアランスに影響を与えるパラメータとされています。また、性交渉によってプロゲステロン腟剤の吸収を減少させる報告もあります(Merriamら、2015)。まだまだ、リスク因子としてわかっていないことが多いため、現段階では①移植当日のプロゲステロン値を測定し、低い場合には追加の黄体補充を検討する、もしくは②最初からプロゲステロン腟剤にプロゲステロン内服を追加するなどの対策が練られています。

文責:川井清考(院長)

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