新鮮胚移植をどう思っているの?(2022年7月時点 当院見解)

患者様から「全胚凍結を勧めているクリニックもある中で、先生はどちらを推奨しますか。」という質問を最近よく受けるようになりました。当院は元々、全胚凍結を主軸とした生殖医療施設でしたので、新鮮胚移植は症例を一部の症例にしか行ってきませんでしたが、生殖医療ガイドライン2021の刊行や体外受精保険適用における高額療養の観点から新鮮胚移植を一定数行うようになりました。

生殖医療ガイドラインでは下記のように書かれています。

CQ.25 新鮮胚移植の有効性は?
・全胚凍結後の凍結融解胚移植と比較し、新鮮胚移植は累積妊娠率・出生率は同等である (B)
・採卵決定時に血中プロゲステロン値上昇を認める場合に新鮮胚移植をさけ凍結融解胚移植を行う(B)
・採卵決定時に菲薄な子宮内膜を認める場合に新鮮胚移植を避け凍結融解胚移植を行う (C)

CQ.26 凍結融解胚移植は新鮮胚移植と比較して有効か?
・high responderでは初回の凍結胚移植において新鮮胚移植に比べて出生率を高める可能性がある (B)
・凍結融解胚移植が胎児発育や母体の妊娠合併症の発症率に影響を及ぼす可能性が指摘されている (B)
・全胚凍結法は、本法の実施が有益であると 考えられる症例に対して実施する (A)

最近のシステマティックレビュー(Tjitske Zaat, et al Cochrane Database Syst Rev. 2021.)でも累積出生率では「全胚凍結戦略」=「新鮮胚移植実施戦略」、OHSS発症リスク軽減では「全胚凍結戦略」が有効、妊娠高血圧症候群、LGA群リスク軽減では「新鮮胚移植実施戦略」有効とされています。

では実際の成績はどうなんでしょうか。日本産婦人科学会のARTデータベースで単一胚盤胞、分割期胚の新鮮胚移植と凍結融解胚移植成績をみても、当院の成績をみても凍結融解胚移植の方が成績は高く感じます。日本産婦人科学会の登録では施設間の治療方針の偏りがだったり、当院の成績は症例数のばらつき(特に新鮮胚胚盤胞移植の症例数が非常に少ない点)から大きなバイアスがあると感じています。

過去の無作為化試験で「全胚凍結戦略」と「新鮮胚移植実施戦略」の成績差が出ていない以上、新鮮胚移植を否定するつもりはありません。しかし、「先生ならどちらをお勧めしますか?」という問いかけに関しては、「現段階では判断に迷うときは全胚凍結戦略をおすすめするようにしています」とお答えするようにしています。
ただし、当院でも数例、全胚凍結で良好胚を複数個戻しても結果がでないのに、新鮮胚移植だけ妊娠・出産に至った症例を経験しておりますので、新鮮胚移植をゼロにすることは今後も全く考えていません。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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