AMH値により初回治療方針(全胚凍結・新鮮胚移植)はどう伝える?(論文紹介)

移植の際、新鮮胚移植もできるんだけど、一旦凍結してから別周期に戻そうか?と悩むことが多々あります。どちらでも対応可能な時に、私たちは患者様に選択を委ねるわけですが、そのなかでも医師の話し方により無意識に誘導していることも多くあるのではないかと感じています。今回、比較的、新鮮胚移植を薦める施設でAMH別に振り返ってみたら生殖医療成績がどうだったかという報告を読みましたのでご紹介いたします。このような報告は生殖医療の大きな発展には寄与しませんが、医療者としての意思決定の上では大事な内容です。

≪論文紹介≫

結論:
採卵個数 20個以下の症例に限り、新鮮胚移植か凍結融解胚移植かどちらの選択が生児出生につながっているか振り返った時、AMH 7ng/ml以上では全胚凍結群の方が初回胚移植の成績が良い傾向にありました。

Kai-Lun Hu, et al. J Assist Reprod Genet. 2022 Jul 23. doi: 10.1007/s10815-022-02564-3.

2017年から2019年までに不妊症で凍結全胚移植と新鮮胚移植の両方の適応となったカップルを調査した後方視的コホート研究です。フリーズオール戦略の絶対適応(PGT、IVM、ドナー卵子、採卵決定時プロゲステロン値が6nmol/l(1.89ng/ml相当)以上、採卵回収卵子数20個以上)の女性は除外しました。卵巣刺激はロング法、もしくはHMGアンタゴニスト法をおこないuHCG 5,000-10,000単位で排卵誘発を実施しました。ロジスティック回帰を用いて、全胚凍結・新鮮胚移植の治療効果がAMH値によって変化するかどうかを非線形交互作用も考慮し評価しました。主要評価項目は、初回胚移植後の生児出生率としました。
結果:
13,503人の女性が新鮮胚移植を受け、2247人の女性が全胚凍結となりました。生児出産率は、新鮮胚移植群に比べ全胚凍結後凍結融解胚移植群でわずかに高くなりました(35% vs. 33%)。血清AMH値と、生児出産に対する全胚凍結・新鮮胚移植の治療効果に非線形相互作用がありました(P = 0.0161)。全胚凍結戦略による生児出産への効果は、AMH値が高い女性(> 7 ng/ml)で有効でした。

AMH値(ng/ml) 0-3.5
(N=10,717)
3.6-7.0
(N=3,711)
7.1-10.5
(N=861)
>10.5
(N=461)
P valuea
女性年齢 33.5 (4.9) 31.0 (3.9) 30.5 (4.0) 29.9 (3.4) <0.001
胚盤胞移植率 1,066 (10%) 503 (14%) 147 (17%) 87 (19%) <0.001
単一胚移植率 2,198 (21%) 673 (18%) 180 (21%) 103 (22%) 0.11
新鮮胚移植率 9,549 (89%) 3,015 (81%) 644 (75%) 295 (64%) <0.001
臨床妊娠率 4,165 (39%) 1,775 (48%) 407 (48%) 210 (46%) <0.001
出生率 3,392 (32%) 1,494 (40%) 327 (38%) 162 (35%) <0.001
多胎率 854 (8%) 406 (11%) 85 (10%) 44 (10%) <0.001

≪私見≫

この研究では、採卵個数20個以下の場合 85%が新鮮胚移植を選んでいることになります。この結果をみると、迷ったら全胚凍結戦略がよいのかもしれませんね。
今回の結果はトリガー時のプロゲステロン値でも補正しています。成績の微妙な差は、医師の裁量(受精卵数が少ないから初期胚でとりあえず戻そう、受精卵数が多いから胚盤胞まで持っていこうなど)が意外と成績に関与していることを示しているかなと思って読んでいました。
医師の判断は本当に大事ですね。そしてデータを振り返ることの大事さも感じます。

文責:川井清考(院長)

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