トリガー時のE2/P4比は胚質に影響を与えるの(論文紹介)

排卵誘発(トリガー)日のプロゲステロンレベルの上昇とともに胚質が低くなったという報告(HuangB, et al. PLoS ONE. 2016、Vanni VS, et al. PLoS ONE. 2017、Racca A, et al. Hum Reprod. 2018)がありますが、全胚凍結して良好胚になってしまえば成績が変わらないという報告もでてきています。胚質は、基本は形態評価による主観的な判断になりますが、より客観的な指標である着床前診断の正常核型率でトリガー時のプロゲステロン値が上昇した胚がどうか調査した報告では1.5ng/mLカットオフ、2.0ng/mLカットオフともに異数性率に差がないことが報告されています(Kofinas JD, et al. J Assist Reprod Genet. 2016、Hernandez-Nieto ,et al. Hum Reprod. 2020)。
排卵誘発時のエストラジオール/プロゲステロン(E2/P4)比が全胚凍結を実施する際、生殖医療成績に影響を与えているかどうかを評価した論文をご紹介いたします。

≪ポイント≫

トリガー時のE2/P4比は、卵子回収率、成熟率、胚盤胞の正常核型率に影響を与えません。

≪論文紹介≫

Marisa Berger, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-022-02491-3
2018年1月から12月までのアメリカの生殖医療施設において初回体外受精周期を対象とした後方視的コホート研究です。排卵誘発日に血清エストラジオール(E2)およびプロゲステロン(P4)濃度を測定し、E2/P4比を算出しました。受精卵は胚盤胞期培養し着床前検査をNGSで実施しました。回収卵子率(回収卵子数/≧13 mm卵胞数)、成熟率(MII卵数/回収卵子数),正常核型率(正常核型胚盤胞数/生検胚数)を算出しました。臨床妊娠、妊娠継続(妊娠10週以上)、凍結融解胚移植後の生児出産をE2/P4との関連で検討しました。
結果:
211人女性が卵巣刺激(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)を実施しました。トリガー時の平均E2濃度は3,449 ±2,040 pg/mL、平均P4濃度は1.13 ± 0.58 ng/mLで、平均E2/P4比は 3.36 + 2.04 でした。E2/P4比の四分位値間に採卵率、成熟率、倍数体率に関する差はありませんでした。138個の凍結融解胚移植が実施されましたが臨床妊娠率、継続妊娠率、生児出生率にE2/P4比の四分位値間の差はありませんでした。

≪私見≫

当研究では女性平均年齢 35歳前後、HMG量が3,300単位前後(卵巣刺激が9日前後)で13mm以上の発育卵胞を15個以上育てるような卵巣刺激です。これくらいの刺激ではプロゲステロン値が上がってくることは、たまにありますが気にすることはなさそうですね。FSH/HMG製剤の違いなどでエストラジオール値が異なるという報告は多々ありますので、あくまで各施設の成績や使っている薬剤を目安に標準的治療の中にも経験則が残っていくことが大事だと考えています。

文責:川井清考(院長)

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