体外受精周期の培養室スタッフはどの程度いれば安心?(論文紹介)

体外受精は、タイムラプス、着床前診断など新しい機材・手技が入り成績に寄与する治療が増える一方、培養室業務はますます複雑化していきます。
日本国内では2022年現在600近い体外受精施設がありますが、施設規模が様々あり施設によっては業務量が過剰になっていることが懸念されます。着床前診断まで行える実施施設において採卵件数あたり何人の培養士が適切な配置なのでしょうか。
こちらを調査した報告をご紹介いたします。

≪ポイント≫

複雑化する体外受精管理を行うために1日7時間/8時間勤務とした場合、タイムラプスを含む体外受精周期 119周期/102周期が培養士ひとりあたりの適切な作業量であり、インシデント・アクシデントを避けるためにスタッフの過重労働になっていないか随時モニターしていく必要があります。

≪論文紹介≫

E Veiga, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac121

タイムラプス・着床前診断など実施できる施設において、培養士一人あたりの適切な体外受精周期数を調査するためにスペインで行われた多施設研究です。
2019年から2020年にかけて3つの公立生殖医療施設と4つの私立生殖医療施設で働く7人の経験豊かな胚培養士が参加しました。各胚培養士があらゆる体外受精プロセスを実行するために、すべてのラボで費やした平均(3回の試行)時間を用いて、各作業にかかる時間を検討しました。
結果:
タイムラプスなしの体外受精周期のさまざまなプロセスに必要な胚培養士1人あたりの時間は8.11時間、タイムラプスありでは10.27時間となりました。これらには、書類処理、体外受精準備、データベース管理、ダブルチェックにかかる時間も考慮しました。タイムラプスを使用しない ICSI では 8.55 時間、タイムラプスでは 10.71 時間、タイムラプスを使用しない ICSI-PGT では 11.75 時間、タイムラプスでは 13.91 時間必要であった。培養環境・機器管理を含む200以上の重要なステップの制御に必要な時間は、1日あたり30分+機器1台あたり3.9分でした。
精液検査またはパートナー精子による子宮内人工授精に要した時間は2.7時間で、ドナー精子の場合は管理に関わるためさらに1時間が必要でした。TESEに必要な時間は4時間、精子凍結に必要な時間は3.7時間でした。
新しい高度なスタッフ計算機は、任意のIVFラボは、結果の安全性や成功を損なうことなく、必要な最小限の胚培養士の数を推定することができます。しかし、私たちは、仕事量に関係なく、すべての検査室に最低2名の有資格の胚培養士を配置することを推奨します。

≪私見≫

ASRMが2008年に発表したガイドライン改訂版、Fertility Society of Australia and New Zealand、ACE、ESHREの培養室スタッフ配置では体外受精150周期につき1人の胚培養士が必要であり、最低2人の胚培養士が勤務することを推奨しています。
しかし、作業量の増加により2014年Alikaniらの調査によると体外受精100周期につき1人の胚培養士が妥当ではないかとされています。当院は恵まれたことに、現在13名の培養スタッフがおりますが、それでもスタッフの自助努力によって支えられている部分が少なくありません。
改めて質の高い環境を維持するための労働環境の整備をすすめていきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

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