ロング法(レコベル®皮下注ペン)にrhCGを追加するとよい?

Thuesen LLらは2012年に1日量150単位のrFSHを用いたロング法に1日量50、100、150IUの尿中hCGを追加群とプラセボ群に62名を4群に分け、卵巣刺激を行ったところ、11-14mmの発育卵胞数も減少しましたが、その差は統計的に有意ではなく、良好胚はhCG追加投与群で多い傾向にありました。
ただし、この研究は少人数であり、一定の方向性が得られなかったため、hCGの追加投与は議論が分かれるところではありました(Hum Reprod. 2012. DOI: 10.1093/humrep/des256)。今回新しいrHCGを付加投与したらどうなるかを同じ種類の臨床研究で組まれていますのでご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

レコベル®皮下注ペンを用いたロング法に新しいrhCG付加投与して卵巣刺激を行うと発育卵胞数が減少し、結果、その後の生殖成績にマイナスの影響を与えました。

論文紹介≫

Manuel Fernández Sánchez, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac061

この試験はロング法(レコベル®皮下注ペン:レコベル)にCG betaを付加した際の有効性と安全性を調査したプラセボ対照二重盲検無作為化試験(RAINBOW)で、欧州5カ国において実施されました。無作為化は、施設と年齢(30~37歳、38~42歳)により層別化しました。主要評価項目は、良質の胚盤胞数(グレード3BB以上)としました。レコベル用量にプラセボ群と1、2、4、8、12ugのCG betaを追加投与する方法に無作為に割り付けられた。
AMH 5~35pmol/Lの女性620人(30~42歳)を6つの治療群に無作為化し、619人が治療を開始しました。レコベルは体重とAMHにより個別容量を設定しました。rhCGによるトリガーは、3個の卵胞が17mmに達したが、25個の卵胞12mmに達しないときに実施されました。
結果:
全体の平均女性年齢、体重、AMHはそれぞれ35.6 ± 3.3歳、65.3 ± 10.7kg、15.3 ± 7.0 pmol/Lであり、無作為化した6群の患者背景は同様でした。周期キャンセルの発生率(0~2.9%)、レコベルの総投与量(平均112 ug)および刺激期間(平均10日間)は各群で有意差なく、刺激6日目では卵胞数と大きさは治療群間で差はありませんでしたが、刺激終了時にはプラセボ群と比較して、12~17mmの発育卵胞が減少しました。17mm以上の発育卵胞数は、CG beta投与群とプラセボ群で同じでした。
12-17mmの発育卵胞数はレコベル単独投与群が12.5個に対してCG beta付加投与群では9.7-11.2と減少しました。回収卵子数はレコベル単独投与群が9.7個に対してCG beta付加投与群では7.3-8.2と減少しました。良好胚盤胞の平均数はレコベル単独群で3.3個、CG beta付加投与群で2.1-3.0個の範囲となりました。移植中止の発生率はCG beta付加投与4、8、12ug群で高く、その多くは移植に使用できる胚盤胞がなかったためでした。継続妊娠率は、治療開始周期あたりレコベル単独投与群 vs. CG beta付加投与群 43% vs. 28-39%、移植あたり49% vs. 38-50%でした。有害事象の発生率は、レコベル単独投与群48.1%、CG beta付加投与群39.6-52.3%でした。OHSS発生率は、レコベル単独投与群(11.5%)に対して、CG beta付加投与群(2.0-10.3%)で低く保たれました。

CG betaは新しいヒト細胞株由来の新規の組み換え hCG (rhCG)で、現在まで発売されているヒト尿由来のhCGやCHO細胞株由来の rhCG とは異なる糖鎖を持っています。男性ではCG beta単回投与は、CHO細胞由来のrhCGよりも半減期が長く、比例して高いテストステロン産生をもたらしています。
ラットにおけるその特異的な生物活性と男性におけるその比較効力(Broksø Kyhlら、2021)から1μgは、225IU LHまたは30IU hCG生物活性と同等とされています。

≪私見≫

hCGを卵巣刺激の早い時期から付加すると発育卵胞数が減少するというのは、臨床を行っているとよく目にすることです。メカニズムは詳細にわかっていませんが、LH 受容体のダウンレギュレーションが一過性に起こったりすることに起因するのかもしれません。同じ卵巣刺激でも、薬剤の特性を理解し治療を行うことが大事だと考えています。

文責:川井清考(院長)

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