精子に対するニコチンの影響(論文紹介)

喫煙は様々な有害物質が含有されるため、不妊・妊娠中のカップルにとって避けられることが好ましいとされています。妊娠前男性パートナーの喫煙習慣と流産の関係はシステマティックレビューにて報告されています。
喫煙状態から禁煙するためにニコチンパッチやニコチンガムなどの禁煙補助薬を用いられることが多いですが、ニコチン自体の精子への影響には様々な意見があります。体外培養での研究ですが、ニコチン濃度を変えてヒト精子への影響を見た報告をご紹介させていただきたいと思います。

≪ポイント≫

  • 高濃度のニコチン下では、ヒト精子の運動能、生存率の低下および先体反応の早期誘導により、受精能に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • タバコによって体内に移行する考えられるニコチン濃度では精子への影響はほとんど見られませんでした。

論文紹介≫

I P Oyeyipo, et al.  Andrologia. 2014. DOI: 10.1111/and.12169

精液所見が正常な12人ドナーから提供をうけた洗浄したヒト精子を、異なる濃度のニコチン0.1、1.0、5.0、10.0mMで処理し、ニコチンを付加していないコントロール群と30、60、120、180分培養後の精液所見を比較検討しました。精子運動能はCASA、生存率はエオジン/ニグロシンを用いた染色法、先体反応はフルオレセインイソチオシアン酸(FITC)結合レクチンを用いたフローサイトメトリ法にて測定しました。
結果:
ニコチン≧5.0 mM濃度の2、3時間培養後に全運動性、進行性運動性、曲線速度、側頭変位の振幅、beat cross頻度、生存率を減少させ、早期先体反応を引き起こしました。ニコチン濃度0.1および1.0 mMは、1.0 mmが2、3時間後の進行性運動、3時間培養後に生存率を低下させました(P < 0.05)。

≪私見≫

報告でも触れていますが、カジュアル・スモーカー(1日当たり1-10本のタバコ)やヘビースモーカー(1日当たり>30本のタバコ; Pacificiet al.)の精液中で検出されるニコチン濃度は70lgl1(0.00043 mM) -300lgl1(0.00185 mM)であり、今回の研究に暴露ニコチン濃度よりかなり低濃度です。体内に検出される濃度では精子に悪影響を与えないかもしれませんが、ニコチン事態が精子に影響を与えることは間違いなさそうなので、基本は節煙、禁煙に向かっていただくのが良いのだともいます。

文責:川井清考(院長)

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