体外受精治療と女性のうつ病との関係(スウェーデンコホート:論文紹介)
体外受精治療をされるときに、うつ病が薬の影響は負の影響があるかどうか聞かれることがあります。新しい種類の薬もでてきているので、一概に結論はだせませんが、うつ病の病態自体が不妊と関連があり、薬の影響ではないのではないか?というのが現在の考え方の主流です。タイミング・人工授精成績にはうつ病の診断では成績に影響しません。
≪ポイント≫
- うつ病/不安神経症と診断を受けた女性、または抗うつ薬を服用した女性で、妊娠および生児出産のオッズがわずかに低下していました。
- 妊娠・出産との間に負の影響は、うつ病/不安神経症と診断を受けた女性で抗うつ薬処方をされていない女性も同様の傾向であったことから、抗うつ薬使用が体外受精治療成績を低下させるわけではなく、病態そのものが影響を与えている可能性が示唆されました。
≪論文紹介≫
Carolyn E Cesta, et al. Fertil Steril. 2016. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2016.01.036
2007年1月から2012年12月にSwedish Quality Register of Assisted Reproductionに記録された初回体外受精を受けた出産経験のない女性(n = 23,557)を対象とした全国規模登録データベースのコホート研究です。評価項目として、うつ病/不安神経症の診断、抗うつ薬内服と体外受精治療成績との関連をロジスティック回帰で評価し、調整オッズ比および95%CIを算出しました。
結果:
4.4%の女性が、体外受精の初回周期前にうつ病/不安神経症と診断され、抗うつ剤を内服していました。妊娠と生児出生率のオッズは低下しました(妊娠:調整オッズ比= 0.86; 95% CI, 0.75-0.98、生児出生率:調整オッズ比= 0.83; 95% CI, 0.72-0.96)。SSRIのみを処方されている女性(n = 829)については、有意な関連は認められませんでした。非SSRI抗うつ薬(n = 52)を処方されていた女性は、妊娠(調整オッズ比 = 0.41; 95% CI, 0.21-0.80)および生児出生率(調整オッズ比= 0.27; 95% CI, 0.11-0.68)が低下していました。抗うつ薬を使用していないうつ病/不安症の診断を受けた女性(n = 164)も、妊娠(調整オッズ比= 0.58; 95% CI, 0.41-0.82)および生児出生率(調整オッズ比= 0.60; 95% CI, 0.41-0.89)が低下していました。妊娠女性(39.7%)では、非SSRI系抗うつ薬を服用している女性(調整オッズ比 = 3.56; 95% CI, 1.06-11.9)を除いて、流産率の上昇は認めませんでした。
≪私見≫
抗うつ薬の使用と体外受精成績の関連は、患者様の不安を煽ってしまう可能性があると考え避けてきたテーマですが、たくさんの患者様から質問をいただきますのでご紹介させていただきました。SNRIなどの薬に対する体外受精結果との関連はこれからですね。
ただし、抗うつ薬の種類によっては急な中止がうつ症状の悪化を招く恐れもあるため、自己判断での中断は決して行わないでください。
なによりうつ病/不安神経症が安定していることが妊娠・出産への近道だと考えています。そのためにも、患者様ごとに状況を判断して、心療内科・精神科施設と治療連携していくこと、正しい情報発信をしていくことが大事だと思います。
文責:川井清考(院長)
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