タイミング・人工授精治療に夫婦のうつ状態は影響を与える?(論文紹介)

母親のうつ病、抗うつ薬の使用、父親のうつ病が、体外受精以外の不妊治療の妊娠転帰に影響するかどうかを調査した報告です。

≪ポイント≫

タイミング・人工授精治療に女性のうつ病は妊娠成績に影響を大きく与えないようです。非SSRIの抗うつ薬を内服している女性で妊娠初期流産が軽度増加する傾向があります。男性のうつ病は妊娠成績に影響を与えそうです。

≪論文紹介≫

Emily A Evans-Hoeker, et al. Fertil Steril. 2018. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.029.

2つの無作為化試験PPCOS II(PCOSに対するクエン酸クロミフェン vs. レトロゾール)と(原因不明不妊に対するゴナドトロピン vs. クエン酸クロミフェン vs. レトロゾール)に対して行ったコホート研究です。
女性および男性パートナーがPatient Health Questionnaire(PHQ-9)記入、女性の薬物使用状況も収集しました。PHQ-9スコアが10以上であれば、活動中のうつ病と判断しました。評価項目は生児出生率とし、副次評価項目は妊娠、妊娠初期流産としました。年齢、人種、収入、妊娠を試みた期間、喫煙、研究(PPCOS II vs. AMIGOS)を調整後の相対リスクを決定するためにポアソン回帰モデルが使用しました。
結果:
女性1,650人、男性1,608人のデータを解析しました。抗うつ剤を使用していない女性では、活動中のうつ病は、より悪い妊娠成績(生児出生率、妊娠初期流産)と関連せず、むしろ妊娠可能性をわずかに増加と関連していました。女性の抗うつ薬使用(n = 90)は妊娠初期流産リスクの増加と関連し、活動中のうつ病の男性パートナーは妊娠成績の低下と関連していました。

PPCOS IIPCOS 750組のカップル(女性は年齢18-40歳、PCOS以外の不妊原因が明確ではなく、男性パートナーの精子濃度1400万/mL以上)を対象に、排卵誘発のためにクエン酸クロミフェンまたはレトロゾールのいずれかの治療に無作為に割り付けられた試験。
AMIGOS原因不明不妊 900組のカップル(女性年齢18〜40歳、男性パートナーの精子濃度が500万/mL以上)を対象に、排卵誘発のためにゴナドトロピン、クエン酸クロミフェン、レトロゾールによるIUIを無作為に割り付けられた試験ランダム。
PHQ-9Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th editionの9つのうつ病基準を0(全くない)から3(ほぼ毎日)でスコア化する有効な自記式質問票。標準的なMental Health Professional Interviewと比較すると、PHQ-9スコア≧10はMDの感度88%、特異度88%。PHQ-9のスコアが5、10、15、20の場合、それぞれ軽度、中等度、中重度、重度のうつ病を表とされています。

≪私見≫

抗うつ薬の使用は過去の報告でも妊娠初期流産の上昇との関連が示唆されています(Almeida ND, et al. Epidemiology 2016)が、非SSRI抗うつ薬の場合としている報告が複数あります。抗うつ剤によっては、薬の急激な中止がうつ症状の悪化を招く恐れもあるため、心療内科・精神科の医師と相談の上、慎重な投与が好ましいと思います。自己判断での中断は決して行わないでください。
妊娠初期にカップルが向き合う不安は体調変化も伴うため、予想以上のストレスとなることが多く、不安を煽るのでなく受診間隔を短めに設定するなどtender loving careが望ましいのかもしれません。

男性パートナーにうつ病の場合、性交頻度が減少すること、精子濃度、運動率、形態、DNA損傷などの精子パラメータに悪影響を及ぼす可能性もあります。抗うつ薬との関連報告もでてきていますので、しっかりフォローしていこうと思います。

文責:川井清考(院長)

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