体外受精治療と女性の抗うつ薬使用との関係(デンマークコホート:論文紹介)

体外受精治療はストレスフルで、うつ状態になりやすい治療だと思います。では、抗うつ薬の内服している女性は内服していない女性に比べて、体外受精にどのような影響を与えているのか、体外受精治療が抗うつ薬内服リスクを上昇させるのかなどをデンマークの全国規模データベースで比較検討した報告です。データベースが古いので、最近の新しい抗うつ薬が比較対象に入っていないと思いますが、患者様と接する上では私たち医療者が知っておくべき知識だと思いますのでご紹介させていただきます。

≪ポイント≫

  • 体外受精中に、抗うつ薬の使用を開始するリスクは高くない。
  • 体外受精治療前に抗うつ薬を使用していた女性は、体外受精を行う回数が少なく、体外受精における累積出生率が低い。
  • 体外受精治療を受けた女性では、産後12カ月に抗うつ薬を使用するリスクが高い。

≪論文紹介≫

G M Hviid Malling, et al. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2021. DOI: 10.1016/j.ejogrb.2020.12.019

1995年から2009年に体外受精治療を開始したすべての女性28,744人(The Danish National ART-Couple(DANAC I)Cohortより抽出)と年齢をマッチさせたART治療を開始していない女性109,720人を比較したデンマークの全国登録ベースのコホート研究です。両群とも、女性は研究参加以前に子供がいない女性としました。評価項目は累積出生率、体外受精治療開始周期数、抗うつ薬使用開始のリスクとしました。
結果:
体外受精治療前、治療中、治療後に抗うつ薬を使用している女性は、抗うつ薬を使用していない体外受精治療中の女性と比較して、有意に高齢(34.1歳 vs. 33.0歳)で、累積出生率(59.9% vs. 63.4%)が低く、体外受精治療開始周期の平均回数(2.4回 vs. 2.7回)が少なくなりました。体外受精治療開始が、抗うつ薬を開始するリスク因子にはなりませんでした(7.4% vs. 5.5%)。生児出産にいたった女性のみを比較すると、体外受精治療を受けている女性の方が産後に抗うつ薬の使用を開始した人が有意に多くなりました(0.8% vs. 0.2%, 調整済み発生率比(IRR) = 2.56, 95 % CI 1.98-3.30; p < 0.001 )。
体外受精治療を受けている女性は、体外受精治療を受けていない年齢をマッチさせた群と比較して、抗うつ薬の使用を開始するリスクが増加しませんでした。体外受精前に抗うつ薬の使用があった女性は、体外受精治療開始周期数が少なく、累積出生率が低くなりました。

≪私見≫

この報告は抗うつ薬を使用している女性は追跡期間中の体外受精治療全体の累積出生率が低いことを報告していますが、これは精神的に負荷のかかる体外受精治療周期回数が抗うつ薬内服女性群で少ないことが影響しているのかもしれません。やはり、体外受精治療は治療回数に累積出生率が影響を受ける部分が大きいと思います。
同じデンマークのコホート研究で、最初のうつ病の診断が体外受精治療前にあったのは34.7%、ART治療中は4.7%、ART治療後は60.7%という報告があり、体外受精治療中はうつ病の発症リスクが低いという報告もあります(C.S. Sejbaek et al.Hum Reprod. 2013)。ただ、うつ病の診断=抗うつ薬の内服ではないため、抗うつ薬の内服の方が軽症のうつ状態や不安、強迫性障害、摂食障害から内服が指示されることもあるので同じ結果でなくてもいいのではと報告者らはディスカッションしていますが、決して体外受精治療がストレスのない治療とは思いませんのでうつ病の診断が体外受精中に少なくなくてもいいのではないでしょうか。
体外受精治療妊娠卒業後の患者様に、産後うつと思ったら無理せず相談にいくようにと一言声をかけてあげるサポートが必要なのかもしれませんね。

文責:川井清考(院長)

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