プレコンセプションケアの必要性(アメリカ産婦人科学会の推奨)

プレコンセプションケアの目標は、健康を最適化し、改善可能なリスク因子に介入し、妊娠に関する正しい教育を提供することによって、女性、妊娠時の妊婦・胎児、新生児への合併症・障害リスクを軽減することです。
どのような内容がチェックされるべきなのでしょうか。アメリカと日本は異なりますが、参考になる項目ばかりですのでご紹介させていただきます。

ACOG Committee Opinion No. 762: Prepregnancy Counseling. Obstet Gynecol. 2019. DOI: 10.1097/AOG.0000000000003013.

A) プレコンセプションケアカウンセリングを受ける時期を考えよう
B) 家族計画を立てよう
C) 妊娠時に影響をある併存疾患を把握しよう
D) 現在服用している薬を確認しよう
E) 家族歴および遺伝歴を把握しよう
F) ワクチン接種をしよう
G) 性感染症スクリーニングを受けよう
H) アルコール、タバコ、薬物乱用を注意しよう
I) 家庭内暴力がないか確認しよう
J) 栄養状態摂取状態を把握しよう:1日の栄養素推奨摂取量の把握と葉酸摂取
K) 適正体重を維持しよう。:BMIチェック
L) 適切な運動習慣を意識しよう
M) 催奇形性物質と環境および職業上の暴露の評価
N) 適切な妊娠週数を把握しよう

A) プレコンセプションケアカウンセリングを受ける時期を考えよう
プレコンセプションケアカウンセリングは、「今後1年間に妊娠したいと思いますか?」という質問からはじめるのがよいかもしれません。その際にピルを内服していようが、妊活をしていようがカウンセリング実施時期として問題ありません。健康状態やリスク因子は年月とともに変化するため、プレコンセプションケアカウンセリングは適時行うことが必要です。

B) 家族計画を立てよう
妊娠間隔が6ヶ月より短くなることは周産期リスクが上昇するため避けることが推奨されています。ただし、過去の報告から体外受精での治療をおこなっている場合、妊娠間隔を18ヶ月以上あけると成績が低下している報告もあるため6-18ヶ月くらいで次の妊娠を考えることが多いとされています。
妊活を始めて、35歳未満の女性では12ヵ月以上(36歳以上の女性では6ヵ月以上)妊娠しない場合、不妊スクリーニングが推奨されています。
月経周期が25-35日で、周期ごとのばらつきが2-3日の場合は、排卵は起こっていると思いますが、月経周期が短い長いが繰り返されている場合、周期が36日以上の場合などは排卵していない可能性もあるので確認が必要です。

C) 妊娠時に影響をある併存疾患を把握しよう

一部の併存疾患は周産期合併症を上昇させるので注意が必要となります。
糖尿病・・・胎児奇形、その他の周産期合併症
高血圧・・・妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育遅延
甲状腺機能低下症・・・流産、死産、妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離
肥満手術・・・術後12―24ヶ月は急激に体重が減る時期なので胎児に影響が出る可能性
精神疾患・・・育児を行えない可能性、妊娠中の精神疾患の増悪
HIV・・・垂直感染
血栓症・・・妊娠中、妊娠後の深部静脈血栓や肺塞栓症
過去の周産期合併症・・・再発リスク

潜在性甲状腺機能低下症に対してルーチン検査をするにはデータが不十分であり、リスク因子(女性年齢30歳以上、肥満、流産歴、早産歴、不妊女性など)がある場合はスクリーニングを検討します。

D) 現在服用している薬を確認しよう
すべての処方薬やサプリメントやハーブ製品なども妊娠に対して悪影響がないかどうか検討することが推奨されています。

E) 家族歴および遺伝歴を把握しよう
夫婦の遺伝性疾患の有無や家族歴を把握しておくことが推奨されています。

F) ワクチン接種をしよう
VPD(ヴイピーディー:Vaccine Preventable Disease)は、あらかじめワクチンを接種することで予防できる病気です。妊娠中はあらゆる感染症により、母体の感染症の重症化や流早産のリスク、風疹・水痘などは胎児に影響(胎児異常など)することがあることを知っておきましょう。一部のワウチンは妊娠中接種できない生ワクチンであるため妊娠前に計画的にワクチン接種を検討することが必要です。ここでは風疹、麻疹、おたふくかぜ、水痘、Tdap、B型肝炎の評価を推奨しています(国内では風疹を強く推奨)。
そのほか、HPVワクチン、インフルエンザワクチン、(触れられていませんが現在で考えると新型コロナワクチン)も推奨しています。

G) 性感染症スクリーニングを受けよう
性感染症スクリーニングの必要性の評価は、妊娠前カウンセリングの際に行うべきとされています。推奨検査は、CDCおよびASRM から入手可能であり、淋病、クラミジア感染症、梅毒、HIVなどのチェックを推奨しています。そのほか、トキソプラズマ、ジカ熱などにも触れられていますが、このあたりは流行の地域や時期により異なります。

H) アルコール、タバコ、薬物乱用を注意しよう
アルコール、タバコ、薬物乱用に関しては事前にリスクを伝えることが必要です。妊娠中の喫煙に関連する悪影響には、子宮内発育遅延、前置胎盤、胎盤早期剥離、母体の甲状腺機能低下、前期破水、低出生体重児、周産期死亡、異所性妊娠など多岐にわたります。妊娠中喫煙女性から生まれた子どもは、喘息、乳児疝痛、小児肥満のリスクが高いとされています。
アルコール摂取の状況を把握し、妊娠中のアルコール摂取には安全レベルや問題ないアルコール種類がないことを説明する必要があります。胎児性アルコール・スペクトラム障害は、中枢神経系異常、成長障害、顔面異形症を伴うものである。アルコール関連先天異常には、成長異常、顔面異常、中枢神経系障害、行動障害、知的発達障害などがあります。

I) 家庭内暴力がないか確認しよう

J) 栄養状態摂取状態を把握しよう
果物、野菜、毎日のマルチビタミンは、男性および女性の生殖に関する健康に役立つ抗酸化物質およびビタミンのよい供給源です。妊婦用マルチビタミンの使用は流産のリスクの低さと関連しています。NTDsのリスクを減らすために、女性の妊娠前の葉酸補給を推奨されています。ビタミンAは胎児毒性があるので、マルチビタミンの推奨量を超えた摂取は避けることが推奨されています。
適度なカフェイン制限(1日200mg以下)は、流産や早産リスク軽減に務まらないこともわかっています。
患者は、カルシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンB、ビタミンD、およびその他の栄養素の1日の推奨摂取量を満たしているかどうか、海外では食事やビタミン補助食品に関する検査を受けることの推奨もされていたりします。
魚の過剰摂取は水銀濃度が体内に蓄積する可能性からさけること、リステリア感染リスクが高い食品を避けることも記載されています。
吸収不良症候群、菜食主義の女性にはビタミンとミネラルの補給をおすすめしています。

K) 適正体重を維持しよう

L) 適切な運動習慣を意識しよう
少なくとも1日30分、週5日、1週間に150分以上の適度な運動をすることが推奨されています。

M) 催奇形性物質と環境および職業上の暴露の評価
環境汚染物質、内分泌かく乱物質に関連した生殖および妊娠のリスクがあることを示唆する確固たるエビデンスが蓄積されています。職業柄、暴露の機会がある場合は注意が必要です。

N) 適切な妊娠週数を把握しよう

文責:川井清考(院長)

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