プレコンセプションケア(何を把握しておくべき?)

妊娠を将来希望する女性に対しての準備をどのように考えるかの報告です。
事前にカウンセリングを行うことにより、人生設計は立てやすくなる可能性がありますが、費用対効果の面などから、誰を対象に、どこまで公的資金を投入しておこなうべきかどうかはこれからの課題です。日本もこれからの分野です。項目によって、国内の取り組みと異なる部分があることもご理解ください。

Raghuraman N, et al. JAMA. 2021. DOI: 10.1001/jama.2020.27244.
Methodius G Tuuli. JAMA. 2021. DOI: 10.1001/jama.2021.16762.

≪ポイント≫

  • 妊娠にむけたリスクを把握しよう。前回の妊娠時におこった合併症は?妊娠に不向きな環境に身をおいていないか、胎児奇形を誘発する薬を使用していないか、栄養状態やBMIは適正を保っているか、タバコ・アルコール・薬物乱用はないか、妊娠に影響を与える併存疾患は管理されているか、妊娠前の適正なワクチン接種は済んでいるか、精神状態は安定しているか、そして高齢化を含めて胎児異常・流産に関わる状態を把握しているかです。

①併存疾患に妊娠時のリスクを把握しよう

末期腎不全、進行性の悪性腫瘍、肺動脈性肺高血圧症は大動脈径45mm以上拡張したマルファン症候群などの心臓疾患は妊娠時の母体死亡率のリスクが非常に高くなります。
高血圧や糖尿病の患者は、母体、胎児、新生児の有害事象のリスクが増悪します。早産、子癇前症、死産などの妊娠合併症の既往がある患者は、最初のおそれがあります。

②ワクチン接種を行おう

生ワクチン(麻疹、おたふくかぜ、風疹、水痘など)は妊娠1〜3ヶ月前に接種し、妊娠中は避ける必要があります。B型肝炎の予防接種は、ハイリスク患者(糖尿病患者、仕事、ライフスタイル、生活環境などにより感染リスクの高い患者など)に対しては、妊娠前に検討する必要があります。

③栄養状態を整え、適正体重を保とう

葉酸を含まないビタミン剤と比較して、妊娠の少なくとも3ヶ月前から葉酸を補給すると、胎児の神経管障害の発生率が1.28%から0.35%に減少します(絶対的減少0.93%、相対的減少70%)。少なくとも400μgの葉酸を含むマルチビタミンを毎日服用する必要があります。抗てんかん薬を服用している女性や過去に患児の病歴がある女性など、神経管欠損症の胎児を持つリスクが高い女性は、妊娠第一期の終わりまで1~4mgの葉酸を摂取することが推奨されます。
妊娠転帰に影響を及ぼす可能性のある様々な健康状態について議論し、葉酸、鉄、ビタミンB12、ビタミンD、ヨードなどの微量栄養素の1日の許容量を満たすべきと言及しています。

妊娠前の時期は、肥満患者には体重減少、低体重患者には体重増加の計画を立てるべきである。肥満の女性では、妊娠前にBMIを少なくとも10%減少させることで、有害な妊娠転帰のリスクを減らすことができるとされています。妊娠前の肥満手術は、BMI>40の患者や合併症を持つ患者のBMI>35の患者で考慮されることがあります。

妊娠中のタバコは、早産、静脈血栓塞栓症、高血圧性、胎児発育遅延、胎盤剥離と関連しています。
アルコールと違法薬物は胎児性アルコール症候群や新生児薬物離脱症候群などを引きおこします。

④自身の妊娠時のリスクを把握しよう

母体年齢が35歳を超えると、流産および胎児染色体異常のリスクは増加します。35-39歳の女性では、流産のリスク/胎児染色体異常のリスクは、いずれも35歳未満の女性の2倍以上となります。35歳以上の妊娠はNIPTを含めた胎児スクリーニングの話を提供すべきとされています。母体年齢があがると、妊娠高血圧症候群、帝王切開分娩、周産期合併症も上昇します。

反復流産既往があるカップルは、遺伝学的、解剖学的、内分泌学的、免疫学的要因などの原因を評価する必要があります。

精神疾患既往のある女性は、妊娠中のうつ状態や不安障害がコントロール不良となることがあります。統合失調症または双極性障害の患者も同様です。SSRIなどの薬剤で胎児奇形に影響する薬剤もあるので事前に確認が必要です。

≪私見≫

ひとつひとつの項目については、以前から不妊で苦しむ患者に対して啓発している内容ですが、妊活を始める前から把握することが確かに好ましいですね。
国内でも普及を進めていく必要があると思います。

文責:川井清考(院長)

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