レコベル®皮下注ペンの国内でのOHSSリスク評価(論文紹介)
世界初のヒト由来細胞株を元に作成した新規リコンビナントFSH製剤レコベル®皮下注ペン(フォリトロピンデルタ)が国内でも販売され始めています。同薬剤を日本人女性に対してAMHと体重に基づき個別化固定用量で行った卵巣刺激のOHSS発症リスクを、フォリスチム®注(フォリトロピンベータ)と比較試験を行った結果をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Osamu Ishihara, et al. Reprod Biomed Online. 2021. DOI: 10.1016/j.rbmo.2021.01.023
国内17施設で実施された無作為化対照、評価者盲検、多施設共同、非劣性試験は、347名の日本人女性を対象に実施されました。個別化フォリトロピンデルタ用量(AMH 15 pmol/l以上は 12μg/日、AMH ≥15 pmol/l未満は0.10-0.19 μg/kg/日、最小6μg/日、最大12μg/日)をフォリトロピンベータ用量(最初の5日間は150 IU/日、その後75単位ずつ最大375IU/日まで調整可能)とランダムに割付け回収卵子数、OHSS発症頻度を比較しました。
卵巣刺激はrFSHアンタゴニスト法です。卵巣刺激6日目からfixedでガニレストを投与しています。17mm以上の卵胞が3個以下、35個以上の場合は採卵を中止とし、25-35個の場合はGnRHアゴニスト点鼻、それ以外はuHCG 5000IUでトリガーしています。OHSSはGolanの分類システム(Golanら、1989)に従って分類しました。早期OHSSは最終卵胞成熟のトリガー後9日以内の発症、後期OHSSは最終卵胞成熟のトリガー後9日以降の発症と定義しました。
結果:
フォリトロピンベータ群と比較して、フォリトロピンデルタ群の採卵数は非劣性が認められました(9.3個 vs. 10.5個、95%CIの下限値-2.3)。OHSS頻度は減少し、OHSSの発生率は11.2% vs. 19.8%(P = 0.021)、中度/重度OHSS率は7.1% vs. 14.1%(P = 0.027 )となりました。
≪私見≫
この論文はレコベル®皮下注ペンを用いた個別化卵巣刺激では発育卵胞数が減り、回収卵子数が低下したのでOHSSリスクが減ったという報告です。Normal -high responderの日本人女性では、個別化投与アプローチでは平均10.8個の回収卵子数となり、従来の投与アプローチよりも約2個少ない回収卵子数となり、結果として中度/重度OHSS率が約50%低くなることがわかりました。レコベル®皮下注ペンがフォリスチム®注に比べて弱い、OHSS発症リスクが低いというわけではなく、今回のレコベル®皮下注ペンを用いた個別化卵巣刺激の用量設定がOHSS発症リスクを下げ、新鮮胚移植に適した指摘目標採卵数(8-14個)をめざせるアルゴリズムであることをしめしています。
レコベル®皮下注ペン群 | フォリスチム®注群 | |
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平均女性年齢 | 34.2 ± 3.5 歳 | 34.0 ± 3.4歳 |
周期数 | 170名 | 177名 |
BMI | 21.4 ± 2.7 | 21.6 ± 2.8 |
AMH | 18.2 (11.0–28.2) pmol/l | 16.7 (11.3–27.4) pmol/l |
AFC | 11.5 ± 6.9 | 11.4 ± 6.9 |
投与期間 | 8.9 ± 1.9日 | 8.8 ± 1.7日 |
Total量 | 83.5 ± 28.9μg | 1499 ± 514 IU |
一日換算量 | 9.4 ± 2.5μg | 167 ± 25 IU |
回収卵子数 | 9.3 ± 5.4個 | 10.5 ± 6.1個 |
文責:川井清考(院長)
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