紡錘体可視化併用でのPiezo-ICSIの成績(論文紹介)

培養部門からの投稿は久し振りになります。

3月22日に当院の論文が雑誌Fertility and Reproductionに掲載されました。
https://www.worldscientific.com/doi/10.1142/S2661318222500049

論文の内容を以下に紹介させて頂きます。
卵子の中に精子を注入する顕微授精は顕微鏡で見ながら行います。

顕微授精をする時は、通常、卵子を立体的に拡大することができる顕微鏡(ホフマン、レリーフコントラスト等と呼ばれています)が用いられます。

通常の顕微鏡を使うと卵子はこのように見えます。

 

通常の顕微鏡とは異なる偏光顕微鏡と呼ばれる顕微鏡で卵子を見ると、卵子の中にある女性のDNAを見ることができます。

こちらは偏光顕微鏡で見た女性DNAが見える卵子になります。背景が青白く、ぼやけて見えるように感じると思います。卵子内部、時計方向1時30分のところに白く楕円形に見えるのが女性DNAになります。

 

一方、こちらは女性DNAが見えない卵子になります。卵子の中の全体を見渡しても、上の写真のように、卵子内部に白い楕円形を見つけることが出来ません。

 

今回発表した論文は、顕微授精をする前に卵子を偏光顕微鏡で見て、卵子の中に女性DNAが見えた卵子、見えなかった卵子の2グループに分けて顕微授精を行った後の受精成績、受精卵の発育を比べました。

主な結果を以下に抜粋します。

女性DNAが見えた卵子 女性DNAが見えなかった卵子
受精率(%) 92% 70%
胚盤胞率(%) 54% 32%
良好胚盤胞率(%) 30% 4%

論文Tableより一部改変

この結果、顕微授精を行う時、卵子の中に女性DNAが見えた卵子は見えなかった卵子に比べて、受精率、胚盤胞率(着床前の状態まで育った受精卵の割合)、良好胚盤胞率(着床前の状態まで育った受精卵のうち評価の高かった【妊娠する確率が高い】ものの割合)が統計学的に有意に高いことが分かりました。

以上のことから、偏光顕微鏡により卵子の中に女性DNAが見える状態で顕微授精を行うことが体外受精の成功率を高めるために重要であることが示されました。

卵子の中に女性DNAが見えない原因は卵子の成熟度の問題、卵子の質の問題等が考えられますが、現在のところ明確に判断できません。今後、女性DNAが見えない原因を明らかにすることで、顕微授精の治療成績の向上に結び付けられればと思います。

文責:平岡謙一郎(培養室長)

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亀田IVFクリニック幕張