単一新鮮胚胚盤胞移植をSARTデータベースを用いて再検証(論文紹介)
2022年4月からの体外受精保険適用は移植回数と年齢によって上限が決まっています。2022年3月までの助成金制度は良い卵子・胚がとれない採卵も1回でカウントされていましたので、ここが大きな違いです。
治療成績の安定性から当院では、一部の症例を除き、全胚凍結を選択する治療を優先していましたが、今回の改訂をふまえて再度、新鮮胚移植を見直す必要があると考えています。
過去のブログでも取り上げましたが、HMG量が150単位スタートのGnRHアンタゴニスト法であれば、新鮮胚移植後の出産率は、卵子9個(40.3%)または胚4個(40.8%)でプラトー、累積出産率は、12個の卵子(42.9%)または9個の胚(53.8%)で最適化するとされています(一周期何個の卵子をとれば効率がよいの?)。
上記のブログでの治療成績は当院の卵巣刺激とも似ているため参考にさせていただいていますが、限られた施設での報告のためビッグデータでの初回新鮮胚移植周期での生殖医療結果との関連を検討したレトロスペクティブ・コホート研究を改めてご紹介させていただきます。
≪論文紹介≫
Stephanie Smeltzer, et al. Fertil Steril. 2019. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2019.06.030
2014~2015年のSART(米国ART協会)データベースに登録されている新鮮胚盤胞移植を行った全女性16,666名の患者を対象に臨床妊娠率、生児出産率、流産率をロジスティック回帰法にて、胚盤胞数と各項目との関連を検討しました。
結果:
患者年齢の中央値は32.1± 3.5歳で、男性不妊症(38.0%)、多嚢胞性卵巣症候群(19.9%)、原因不明不妊(20.8%)でした。回収卵子数の中央値は15個、胚盤胞胚数の中央値は4個でした。
単一新鮮胚盤胞移植では、臨床妊娠率は、胚盤胞数が5個まで増えるごとに18%高くなり、5個以降は増えるごとに2%ずつ低下しました(OR 1.18、95%CI 1.15-1.21;P<0.0001)(OR 0.98, 95% CI 0.97-0.99; P=.05)。生児出産率のオッズは,胚盤胞が5個まで増えるごとに17%高くなり,5個以降では1個増えるごとに2%低下しました(OR 1.17, 95% CI 1.14-1.20; P< .0001)(OR 0.98, 95% CI 0.97-0.998; P=.02)。胚盤胞数と流産率の間に有意な関連は認められませんでした。
≪私見≫
米国のビッグデータでは単一新鮮胚盤胞移植の臨床妊娠率・生児出産率共に卵巣刺激での胚盤胞数が5個増えるごとに有意に上昇し、それ以降は下降することがわかりました。胚盤胞を5個以上とるような卵巣刺激では、移植時の子宮内膜受容性に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
この論文の面白いところは35歳以上の女性2,697名では、臨床妊娠率のオッズは、胚盤胞数が5個まで増えるごとに31%高くなり(OR 1.31, 95% CI 1.17- 1.48; P<.0001)、胚盤胞数が5個を超えても臨床妊娠率との有意な関係は認められなかったところです(OR 1.03, 95% CI 0.99-1.07; P=.15)。年齢が上がると胚の質が重要な因子になりますから、ある程度までは形態で評価できるということですね。
日本のこれまでの全胚凍結の流れは、助成金制度に合わせて適応した可能性も否定できません。改めて当院でも新鮮胚移植を見直していきたいと思っています。
過去に当院で行ったrFSH150単位スタートのGnRHアンタゴニスト法で単一胚盤胞移植を行った20症例の成績は平均女性年齢34歳前後で臨床妊娠率 30%。AMH 3ng/ml前後の患者様に対して9個前後の回収卵子、有効胚率は3.4個でした。
もう少し工夫すると新鮮胚移植での臨床妊娠率が上げられると思っています。
文責:川井清考(院長)
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