一周期何個の卵子をとれば効率がよいの?(論文紹介:新鮮胚移植含む)

胚移植あたりの妊娠の効率化を求めた場合、卵巣刺激によるOHSSリスクを背負ってまで高刺激を行うメリットがなくなってきます。その反面、妊娠までの期間を短縮するために体外受精を行うわけですから、このあたりのバランスをみながら治療方針を立てていくことが賢明です。体外受精の第一目的は妊娠・出産することですが、次にOHSSなどの合併症を引き起こさないこと、生活リズムを乱さないことが大事になってきます。
ではOHSS回避のためにマイルドアンタゴニスト法を選択したときに最大効率を求める場合、何個の卵子・胚獲得を目指すべきでしょうか。論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

adrija Kumar Datta, et al. Reprod Biomed Online. 2021. DOI: 10.1016/j.rbmo.2021.02.010

OHSSリスクを回避するためにゴナドトロピンを150単位以下のアンタゴニストプロトコールとしたときの周期当たりの出産率、累積出産率を最適化するためには何個の卵子・胚が必要かを検討した報告です。
5つの不妊治療センターの4年間のデータベースのレトロスペクティブ分析。新鮮胚移植を予定した18歳-42歳までの女性(AFC≧7、および/またはAMH≧7pmol/l)で、卵巣低反応の既往がなく、一日のゴナドトロピン量を150IU以下の「マイルドな」卵巣刺激プロトコルの初回採卵周期のみを対象としました。
結果:
862周期を対象とし、592周期は新鮮胚移植、239周期はは非選択的な「フリーズオール」周期となりました。新鮮胚移植を実施した女性の年齢中央値(25~75パーセンタイル)は35歳(32~37歳)、AFCは19(14~28)、AMHは19.2(13~28.9)pmol/Lでした。
35歳未満、35~37歳、38~39歳、40~42歳の各年齢層における新鮮胚移植あたりの出産率、凍結融解胚移植も含む累積出産率は、それぞれ37.8%と45.1%、36.0%と41.6%、18.4%と29.1%、8.9%と18.1%でした。新鮮胚移植後の出産率は、卵子9個(40.3%)または胚4個(40.8%)でプラトーになりました。累積出産率は、12個の卵子(42.9%)または9個の胚(53.8%)で最適化されました。
卵子1個あたりの出産率のピークは、35歳未満の女性で卵子 5個以下の回収卵の場合(11.4%)となり、年齢の増加や回収卵子数が増えると低下しました。重症OHSSを発症した症例はありませんでした。

≪私見≫

一周期あたりの回収卵子数は大事ですね。
今回の報告ではOHSSを引き起こさないように意識したマイルドアンタゴニスト法では累積出産率は、12個の卵子(42.9%)または9個の胚(53.8%)で最適化されました。
過去の報告では6-15個となっています。フリーズオール戦略を考える場合、少し印象が変わってくるかもしれませんが、どこまでの胚を凍結するかというポイントも大事になってくる気がします。過去の妊娠成績を最適化する報告は以下の通りです。
新鮮胚移植が前提になっている論文がほとんどですが、「出産率を最適化する回収卵数」はそれくらい採ると、胎児につながる良好胚が準備できるという理解で良いかと思います。これらのことから10-15個の回収卵子数にあわせる卵巣刺激が好ましいような印象を持っています。

報告 周期数 出産率を最適化する回収卵子数 累積出産率を最適化する回収卵子数 OHSSリスクが上昇する回収卵子数
Connell et al., 2019 10,193 11–15 上限なし >10
Chen et al., 2015 1,567 10–12 15 >15
Drakopoulos et al., 2016 1,099 >15 >15
Ji et al., 2013 2,455 6–15 >15 >15
Magnusson et al., 2018 77,956 11 20 >18
Polyzos et al., 2018 14,469 7 25 >25
Steward et al., 2014 256,381 15 >15
Sunkara et al., 2011 400,135 15

文責:川井清考(院長)

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