胚移植で戻ってきた胚を再移植したら成績は落ちる?(論文紹介)

胚移植(ET)は、体外受精(IVF)を受けた女性の妊娠率に影響を与える重要なステップです。胚移植を行った後にカテーテル内に胚が残っていることがあります。海外では「embryo retention」と表現することが多いみたいですが、国内では「戻り」などと表現されることがあります。過去の報告では胚移植の1~8%の間に起こるとされています。患者様からすると、胚にダメージがあるのではないか?など不安が多く残ると思いますが、胚移植で戻ってきた胚を再移植しても臨床妊娠率、着床率、出生率などには影響を与えないという報告が数多くあります。大規模データベースにおいて、胚移植で戻ってきた胚の再移植した際の成績を検討した論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Einav Kadour-Peero, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-022-02450-y
2008年1月から2018年12月までに合計15,321回の胚移植周期を対象とした生殖医療センターにおけるマッチドレトロスペクティブコホート研究です。
胚移植をおこなって胚がカテーテル内に戻ってきた女性188名と年齢、胚の状態、不妊原因、新鮮または凍結融解胚移植のプロトコール種類が同じ胚移植をマッチングさせた564名の女性で成績を比較しました。着床率、臨床妊娠率、子宮外妊娠率、生児出産率を評価項目としました。
結果:
胚移植を行って戻ってくる確率は1.4%(213/15,321)でした。新鮮胚移植と凍結融解胚移植で戻ってきてしまう割合に差はありませんでした(P = 0.54)。
胚移植を行って胚がカテーテル内に戻ってきた女性とマッチング女性では、
臨床妊娠率(31.3% vs. 36.1%, P = 0.29)、着床率(26.2% vs. 31.3%, P = 0.2)、出産率(20.3% vs. 24%, P = 0.53)、異所性妊娠率(0.5% vs. 0.4%, P = 0.18)、流産率(10.7% vs. 11.3%, P = 0.53)に差がありませんでした。

≪私見≫

過去の報告同様、胚移植時の戻ってきた胚の再移植、妊娠転帰に影響を与えないため、患者も医療者も心配する必要はないと結論づけています。
その代わり、胚移植時の胚の戻りは少ないに越したことはありません。
彼らは戻りが減るような移植方法として、カテーテルの先端は子宮底部から約1-1.5cmの位置に設置し、胚を20μLの培地とともにカテーテルに装填した。インナーカテーテルの先端には5μLの気泡を入れ、超音波ガイド下で移植をおこない、カテーテルの抜くときには気を遣っているようです。
今回の報告では有意差がついておりませんが、胚移植時の胚の戻りのリスクとして、カテーテル内の血液や粘液が付着すること、また移植する胚の数が考えられます。胚移植は手技としては単純ですが、とても奥深く1%の成績向上のために細心の注意を払い実施すべき治療だと思います。
当院の2020-2021年のembryo retention率は0.42%(7/1661)でした。
ゼロに近づけるよう努めていきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

亀田IVFクリニック幕張