体外受精の保険適用について~当院受診中の患者様へ(2022/2/10現在)~

体外受精について、保険医療の公定価格である診療報酬点数が発表されました。中央社会保険医療協議会 総会(第516回)議事次第、「答申について」の「PDF 総-1(PDF:4,287KB)」(P322-337)に記載されておりますが、なかなか分かりづらい部分もありますので当院で治療中もしくは治療を考えられている患者様に現在の費用とのおおよその違いをお伝えできればと思っています。

保険適用になり、医療関係者・患者様から色々な意見を伺いますが、個人的に良かったなと思うのは、体外受精治療について多くの人に認知してもらい議論してもらえたこと、一部の患者様には経済的負担が軽減されることです。患者様からすると、思ったほど助成金制度がなくなることを思えば安くならなかったなと思うかもしれませんが、次世代の生命を繋ぐ不妊治療のクオリティーの維持・管理には目に見えない大きな費用がかかっています。
全てが決まっているわけではありませんので、大まかな部分しかお話できませんが、外来での相談、電話での問い合わせが増えてきたため、ブログ記事を出させていただくことといたしました。現状の特定不妊治療費助成事業と4月以降の保険制度の変わり目で判断材料が多く、迷われると思いますが、一緒に妊娠・出産に到達できるよう頑張りましょう。

●一般不妊治療(タイミング法・人工授精法)

タイミング治療の患者様には大きな変更はありません。
患者様のメリットは、一部の今まで自費だった検査が保険適用になるところです。全部は挙げられませんが、「多嚢胞性卵巣症候群の排卵誘発」にはレトロゾールとメトホルミン、「原因不明不妊における排卵誘発」にはレトロゾールが、現在の自費診療から保険適用になります。
人工授精治療の患者様には、かなり大きなメリットがあります。
現在、21,000円(自費)で頂いていたところ、保険で1,820点(1点10円なので18,200円の3割負担:5,460円)で治療を受けていただけることになります。
今までなかった費用としては別途、一般不妊管理料として3ヶ月に1回250点加算されるようになります(3割負担:750円)

●体外受精治療

体外受精治療の一番のメリットは薬剤負担が安くなるところです。また保険適用・高額療法費を使うことができるようになりますので、一部の治療の患者様には経済的負担の軽減につながる方もいらっしゃるのではないでしょうか。当院に関して概算してみましたが、大まかなイメージを記載させていただきます。当院で治療中の患者様には、助成金のあるなしで事前に外来で4月まで待っても良さそうな方、先にトライを検討されても良い方はお話しておりますのでお気軽にご相談ください。

採卵・調節卵巣刺激(現在、助成金使用できない)⇨大幅に負担軽減
採卵・調節卵巣刺激(現在、助成金使用できる)⇨軽度に負担軽減
採卵・低刺激(現在、助成金使用できない)⇨負担軽減
採卵・低刺激(現在、助成金使用できる)⇨微妙な範疇
胚移植(現在、助成金使用できない)⇨負担軽減
胚移植(現在、助成金使用できる)⇨費用負担変わらず、もしくは増加
採卵・胚移植ともに保険適用を使用できない⇨薬剤費など負担増のため負担増の可能性あり

上記はあくまで当院との比較です。
保険点数についてもご説明いたします。
全て「保険点数×10円の3割負担」ですので、点数に3をかけた数字がおおまかな費用になります。
①採卵をした場合
採卵術   3,200 点
注 (採卵された卵子の数に応じて下記イロハニを加算)
イ 1個の場合       2,400 点
ロ 2個から5個までの場合 3,600 点
ハ 6個から9個までの場合 5,500 点
ニ 10 個以上の場合    7,200 点
≪川井コメント≫
採卵をするのにかかる費用は保険適用で支払った場合、9,600円(回収卵なし)-31,200円(10個以上とれた場合)になります。

②体外受精又は顕微授精を実施した場合
体外受精・顕微授精管理料
体外受精           4,200点
顕微授精
イ 1個の場合        4,800点
ロ 2個から5個までの場合  6,800点
ハ 6個から9個までの場合  10,000点
ニ 10個以上の場合     12,800点

体外受精及び顕微授精を同時に実施した場合(スプリット)は、体外受精費用の半分と顕微授精費用を足した金額、そして精巣内精子採取術により採取された精子を用いる場合は、採取精子調整5,000 点が加算されます。
卵子活性化をすると卵子調整加算 1,000 点が加算されます。
≪川井コメント≫
射出精子でトライした場合、受精にかかる費用は保険適用で支払った場合、12,600円(全て媒精した場合)-44,700円(スプリットとして顕微授精も10個以上した場合)になります。卵子活性化も費用はかかりますが、当院の場合は現状、特殊症例しか行っていませんので、今後もほぼ行うつもりはありません。

③体外受精又は顕微授精により作成した受精卵の培養等の管理に係る評価 (新)
受精卵・胚培養管理料
1個の場合        4,500点
2個から5個までの場合  6,000点
6個から9個までの場合  8,400点
10個以上の場合     10,500点
注 胚盤胞培養加算
(胚盤胞の作成を目的として管理を行った胚の数に応じ下記を加算)
1個の場合       1,500点
2個から5個までの場合 2,000点
6個から9個までの場合 2,500点
10個以上の場合     3,000点

≪川井コメント≫
正常受精した個数の胚発育を観察・評価する費用です。
培養費用は胚盤胞培養前提だと保険適応で支払った場合、18,000円(1個正常受精卵の場合)-40,500円(10個以上正常受精卵がある場合)になります。ここには今後タイムラプスが先進医療で加算されることが考えられます。

④受精卵の培養により作成された初期胚又は胚盤胞の凍結保存に関わる医学的管理に係る評価 (新)
胚凍結保存管理料
1 胚凍結保存管理料(導入時)
イ 1個の場合        5,000点
ロ 2個から5個までの場合  7,000点
ハ 6個から9個までの場合  10,200点
ニ 10個以上の場合      13,000点
2 胚凍結保存維持管理料        3,500点
胚凍結保存維持管理料は凍結保存の開始から1 年を経過してから、凍結胚の維持管理を行った場合に、当該凍結保存の開始日から起算して3年を限度として、 1年に1回に限り算定できます。
≪川井コメント≫
凍結費用は保険適用で支払った場合、15,000円(1個の場合)-39,000円(10個以上の場合)になります。ここが一番難しいところです。
初期分割期胚は、そこまで形態評価での凍結基準が難しくないですが、胚盤胞期胚の場合は極めて妊娠率が低いけれど、どうにか凍結できるかどうかの胚盤胞を凍結するのか、費用対効果を考えると難しいところです。というのも今回の体外受精の保険適用は年齢に応じて請求できる回数が移植回数に依存するため、上位を戻して妊娠しないと判断される胚をどのように扱うかはとても難しい課題となっています。ここに今後、先進医療になると考えられる着床前診断も加わって来ると、より複雑化します。
また、多胎予防のために行っていた単一胚移植を患者様が遵守してくれるかどうかレギュレーションも必要になってきます。当院でも、こちらに関してはどのように対応するか、運用が大きく変わる部分ですので検討していきたいと思います。

⑤胚移植術
1 新鮮胚移植の場合         7,500点
2 凍結・融解胚移植の場合      12,000点
着床率の向上を目的として下記が保険算定可能となります。
アシステッドハッチング        1,000点
高濃度ヒアルロン酸含有培養液  1,000点
≪川井コメント≫
保険適用で支払った場合、新鮮胚移植は22,500円、凍結・融解胚移植は36,000円になります。アシステッドハッチングと高濃度ヒアルロン酸含有培養液が保険にはいってきたことは嬉しい誤算でした。当院の場合、凍結・融解胚移植の場合、自身でハッチングできていない胚はアシステッドハッチング、高濃度ヒアルロン酸含有培養液は全例コストを発生させず行ってきましたので、こちらは請求させていただくことになるかと思います。
⑥その他
AMH測定は体外受精の卵巣刺激前提であれば6ヶ月に1回 600点で検査できるようになります。
仮にですが、卵巣刺激にかかる薬剤費用は保険を使うと5,000-50,000程度です。
その間にかかるホルモン採血費用は保険を使うと当院で3回実施した場合、5,000円前後です。超音波検査を同様に3回実施した場合、5,000円前後です。
今までなかった費用としては別途、生殖補助医療管理料が毎月250-300点(750-900円)加算されるようになります。

●保険適用になり患者様にとって良いところ

患者様にとって保険適用になって良いところは保険部分には消費税がかからないところです。これは大きい部分ですね。
もう一つは、高額療養費(高額療養費制度を利用される皆さまへ)が使えるようになるところです。
医療費の家計負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1ヶ月で上限額を超えた場合、その超えた額を支給する制度です。また1年のうちに高額療養費が4ヶ月を超えると支給範囲が大きくなります。こちらも体外受精治療は年齢を考えると続けて行うことが多い治療ですから体外受精治療を行う不妊患者様には福音です。ただ、注意点も必要です。いろいろなSNSでは患者様の自己負担が90,000円前後になるから今の体外受精負担費用より安くなるという情報が飛び交っていますが、この上限額は年収約370~約770万円の上限額です。所得に応じて上限額は異なっておりますのでご自身で確認してみてください。
また、今回タイムラプスやSEET法の位置付けとして検討されている先進医療にかかる費用は高額療養費の支給対象とはされていません。先進医療にどのような項目が含まれてくるかはまだ分かっていないため方向性が分かり次第ご報告させていただきます。

●現在不明なところ

現在、凍結されている受精卵の保険制度への移行、助成金制度をいつスタートまで使用できるか、現在、第二子のために保管している受精卵が保健適用の凍結保存対象に移行されるかは全く私たちもわかりません。
また当法人内で、保険適用に該当しない患者様の治療費を現在のままのコストで提供するか、保険適応の10割で提供するのかは方向性が定まっておりません。どちらに定めたとしても利益・不利益をうける患者様は同等数いらっしゃいますので、こちらも明確になりましたら適宜告知させていただきます。

今まで薬価収載がなかった薬剤で、今回薬価収載されたものがあります。こちらに関しては自費の場合は薬価での請求とさせていただきますのでご了承ください。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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亀田IVFクリニック幕張