正常核型胚の妊娠継続率を予測する因子はなに?(論文紹介)

凍結融解移植で移植する胚に迷った時に、どの胚から戻すかは様々な要素があります。ただ、正常核型胚と仮定した場合、プラスαの判断材料をどこに落とし込んでいくのか難しいところです。ここに焦点をあてた報告です。
胚側の情報も大事だけれど、母体側をしっかり整えてね。そっちの方がリスク因子になるよという警鐘にもなるレトロスペクティブ研究ですが、私は個人的に必要な報告だと思っています。

≪論文紹介≫

Andrea Abdala, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-021-02380-1
5日目または6日目正常核型胚盤胞の凍結融解胚移植の胎児心拍陽性となる臨床妊娠率に最も影響を与える因子を明らかにすることを目的としています。2017年3月から2021年2月まで、排卵周期またはホルモン補充周期で移植された、5日目または6日目胚盤胞の単一凍結融解胚移植のレトロスペクティブ研究です。アブダビの単一施設で行われました。
結果:
合計1,102の凍結融解胚移植周期が含まれ、678周期が5日目、424周期が6日目の胚盤胞を移植しました。妊娠率(4w3dでβ-hCG value ≥ 15 mIU/mL)、臨床妊娠率、心拍陽性臨床妊娠率は、Day5胚盤胞の方が有意に高くなりました(妊娠率:70.7% vs 62.0%、OR = 0.68 [0.53-0. 89]、p = 0.004、臨床妊娠率: 63.7% vs 54.2%, OR = 0.68 [0.52-0.96], p = 0.002、心拍陽性臨床妊娠率: 57.8% vs 49.8%, OR = 0.72 [0.53-0.96], p = 0.011)。しかし、流産率(12.5% vs 11.4%、OR = 0.78 [0.48-1.26]、p = 0.311)には差がありませんでした。多変量ロジスティック回帰モデルでは、子宮内膜厚(OR = 1.11 [1.01-1.22]、p = 0.028)、患者年齢(OR = 1.03 [1.00-1.05]、p = 0.021)、BMI(OR = 0.97 [0.94-0.99]、p = 0.023)、ICMグレードC(OR = 0.23 [0.13-0.43]、p < 0.001)は、心拍陽性臨床妊娠率を予測する上で有意であることがわかりました。
結論:
正常核型胚の場合、Day5胚盤胞単一凍結融解胚移植の方が臨床成績は良好ですが、心拍陽性臨床妊娠率は、biopsy日や子宮内膜作成プロトコールより、子宮内膜厚、患者年齢、BMI、ICMグレードCの影響が大きいことがわかりました。

≪私見≫

5日目または6日目正常核型胚盤胞の凍結融解胚移植の妊娠継続率に焦点を当てた論文は複数でており、基本は差がないか、5日目正常核型胚盤胞の方がやや成績がよいという結論となっています。(Park DS, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2020. Ji H, et al. Reprod Sci. 2021. Li YX, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2020.)
今回の論文は5日目正常核型胚盤胞の方がややいいのではないか派の報告です。

胚盤胞形成が遅れること(胚発生がゆっくりであること)は、必ずしも染色体が原因であるわけではありません。7日目胚盤胞でも正常胚なら妊娠率が悪くないという報告(Tiegs AW, et al. Hum Reprod. 2019)、5日目または6日目胚盤胞の凍結融解胚移植の妊娠継続率は着床前診断をしないと落ちるが、着床前診断をしたら差はほとんどないという報告(Kimelman D, et al. J Assist Reprod Genet. 2019)などからも他に規定する因子があり、妊娠にどの程度影響を与えるのかは これから調べる課題となってくるのではないでしょうか。

文責:川井清考(院長)

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