採卵の疼痛管理にアセトアミノフェンは有効?(論文紹介)
採卵時に疼痛を訴える患者様に対してアセトアミノフェンを併用することがありますが、採卵時のアセトアミノフェンの有効性を示した論文はほとんどありません。麻薬併用下静脈麻酔に追加する形でのアセトアミノフェンの有効性を比較した論文が報告されましたのでご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Caitlin R Sacha, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.046
採卵を行う女性を対象に、術前にアセトアミノフェンを静脈内投与した場合、経口投与した場合、両方をプラセボとした場合との3群で術後の疼痛スコアを比較検討しました。
単一の生殖医療施設で実施された無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験で18~43歳の女性を対象としました。術前にアセトアミノフェン1,000mg静注およびプラセボ内服群(A群)、プラセボ静注およびアセトアミノフェン1,000mg内服群(B群)、プラセボ静注およびプラセボ内服群(C群)に無作為に割り付けました。
評価項目は術後のvisual analog scaleによる疼痛スコアのベースラインと帰宅時との差としました。
結果:
159人の女性のうち、術後の疼痛スコアの平均値の差や退院までの時間には差がありませんでした。統計的には有意ではありませんでしたが、A群の術後の平均オピオイド必要量は、B群およびC群に比べて少なくなりました(それぞれ0.24 vs. 0.59 vs. 0.58 mg IVモルヒネ等価物)。これは、A群ではレスキューでの鎮痛剤投与を必要とする女性が少なかったためです(それぞれ8% vs. 19% vs. 15%)。
また、A群は、B群およびC群と比較して、麻薬の副作用と考えられる便秘が少なくなりました(それぞれ19%対33%対40%)。術後の吐き気の発生率は同程度であり、全群間で胎児や妊娠初期の転帰に違いは見られませんでした。
結論:
採卵を行う女性に対する術前のアセトアミノフェン静注は、手術時フェンタニルを用いた術後管理を行う場合、疼痛スコアを低下させず、帰宅までの時間を短縮しなかったため、ルーチンでの使用は推奨することはできません。
今回の症例は平均35歳、BMI 25前後の女性が多く、採卵時間は15分前後です。採卵中は全症例ともプロポフォールによる静脈麻酔を受け、フェンタニルなどのオピオイドで痛みを抑えています。また、麻酔科医の判断により、周術期の吐き気に対してダンセトロンを投与しています。リカバリールームへの入室時刻,退室時刻,術後10分,30分,および帰宅時の疼痛スコアを記録しています。
≪私見≫
この論文では、麻薬併用下静脈麻酔に追加する形でのアセトアミノフェンの有効性は見出せませんでしたが、アセトアミノフェン静注群は術後オピオイド投与量が少ない傾向にありました(つまり疼痛が少しは和らいでいることを示唆しているとディスカッションでは書かれています)。
この論文では採卵針の太さが書かれてありません。現在、国内で多く使用されている20ゲージ以上の針であれば静脈麻酔併用をしなくても疼痛は自制内であることも多いです。もちろん、患者様が痛みに堪えていただいている部分も否定できませんが、帰宅までの時間などを考慮すると局所麻酔のみでアセトアミノフェンを適宜使用し管理することで患者様の満足度を上げられるように努めていきたいと思います。
文責:川井清考(院長)
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