クロミフェン治療長期投与は子宮内膜厚で判断?(論文紹介)
クロミフェンクエン酸塩(クロミッド®️)治療で複数回失敗したときに薬の切り替えをするかどうかを検討した論文です。以前には、クロミッドを6回投与し妊娠成立しない場合はゴナドトロピン療法に切り替えると、出生までたどり着く割合が11%増加しますが、費用面では負担が大きいよという報告がされています。では、切り替えなくても妊娠率が下がらない群はどのような症例でしょうか。一つの指標としてクロミッドの連続投与したときに子宮内膜厚で判断できないかというのが、この論文のテーマです。
≪論文紹介≫
E M Bordewijk, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa052
2008年12月8日~2015年12月16日にオランダの48の病院で行われたRCTです。クロミッド治療6回不成功の女性666人を、ゴナドトロピン(50-75単位/日)に変更して追加6周期を行う群(n=331)と、クロミッド(50-150mg/日)を継続して追加6周期を行う群(n=335)に無作為に割り付け、いずれもタイミング療法または人工授精を行いました。主要評価項目は、無作為化後8カ月以内に妊娠して生児(24週以降)出産することとしました。子宮内膜厚は、無作為化前の6回目のクロミッド周期の排卵期に測定された値としました。子宮内膜厚は380人の女性で得られ、そのうち190人がゴナドトロピン投与群に、190人がクロミッド投与群に割り振られました。対象は正常ゴナドトロピンの排卵障害がある平均年齢 29歳前後、BMI 25前後の女性です。
結果:
6周期目の排卵期の子宮内膜厚は治療効果と関連しました(P < 0.01)。スプライン解析の結果、カットオフポイントは 7mm でした。6回目の排卵周期で子宮内膜厚≦7mmであった女性は162名(45%)、子宮内膜厚>7mmであった女性は218名(55%)でした。子宮内膜厚が≦7mmの女性では、79人中44人(56%)がゴナドトロピンで、クロミッドでは83人中28人(34%)が生児出産に至りました(RR 1.57、95%CI 1.13-2.19)。ゴナドトロピンを用いた場合の追加生児数あたりのICER(増分費用効果比)は9709ユーロ(95%CI:5117ユーロ~25302ユーロ)でした。子宮内膜厚>7mmの女性では、ゴナドトロピンでは111人中53人(48%)、クロミッドでは107人中52人(49%)が生児出産に至りました(RR 0.98、95%CI 0.75-1.29)。
結論:
クロミッド治療で6回結果が出ていない場合、ゴナドロピンに切り替えるかどうかは排卵時期の子宮内膜厚が7mmを維持できているかどうかで重要です。7mmを切っている場合はクロミッド治療に比べて8ヶ月以内の妊娠・生児出産率が22%増加するため、ゴナドトロピンへの切り替えをお勧めします。ただし、7mm以上を維持できている場合は費用対効果を考えるとクロミッドによる治療を継続することをお勧めします。
≪私見≫
クロミッドを長期内服して排卵期の子宮内膜厚が7mm以下の女性の妊娠率が低いのは、子宮内膜の発育/受容能、子宮頸管粘液、子宮血流の障害がクロミッドの抗エストロゲン効果によって誘発されている可能性が考えられます(Gadalla MA,et al. Ultrasound Obstet Gynecol 2018)。クロミッドの抗エストロゲン作用に対しての子宮内膜の反応性のより、治療法を判断するのは納得がいく説明だと思います。クロミッド6回不成功でゴナドトロピンへの切り替えを躊躇する理由として医療費の増大があげられています。最近ではレトロゾールなどの排卵誘発剤もありますので、クロミッド反復不成功の際の継続・切り替えはレトロゾールを用いて行っていくスタディーが出てきてほしいところです。
当院ではクロミッドでの過去の妊娠歴がなければ6回妊娠しなければ迷わず切り替えるところです。
文責:川井清考(院長)
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