排卵がある女性に対するクロミッドの有用性

クロミフェンクエン酸塩(クロミッド®️)は排卵がある原因不明不妊の女性には妊娠率・出生率向上に寄与するのでしょうか。
ほとんどの論文ではタイミングでは寄与しない、人工授精では寄与するというのが一般的な見解です。クロミッド自体は排卵をさせるにはとても有用な卵巣刺激剤です。ただし、クロミッドのもつ抗エストロゲン作用による内膜の菲薄化や頚管粘液の減少が起こった場合はタイミング治療にとって不利益もありそうです。その他にも、クロミッド周期では、エストラジオールとプロゲステロン値には異常はないけれど、黄体期前期に有意な子宮血流の減少が認められたという報告などがあり、ホルモン値では判断できない相対的な黄体機能不全が起き、内膜変化に影響を与えている可能性を示唆した報告もあります (Hsu CC, et al. Obstet Gynecol. 1995、Bonhoff AJ, et al. Hum Reprod. 1996)。
それでも私たち生殖医療従事者がクロミッドを原因不明不妊に使っているのは、人工授精・体外受精の卵巣刺激を見据えた場合や、過去の妊娠既往、そして何より患者様に情報提供のうえ、妊娠率に強く寄与しないと思っていても治療選択をされた場合となります。医療者側は患者様に有益であるという判断のもとに薬の処方を必ず行っています。ただ、説明不足のため、内服を希望していないのに処方されたと不信感をもつ患者様が数多くいるのも実情です。
双方にとって納得いく治療が行われていくことが一番ですね。

下記の根拠は2020年の原因不明不妊の治療法についてのクロミッドに対する見解部分です。参考になさってください。
原因不明不妊に対するアメリカ生殖医学会の治療ガイドライン

①クロミッドを用いたタイミング法は妊娠・出産率改善が見込めないため、原因不明不妊症の治療法として推奨されない

原因不明不妊症のタイミング治療にてクロミッドの有用性を下記のRCTとシステマティックレビューで評価しています。
ほとんどの研究では、クロミッドでは他の治療と比べて妊娠率に差がないことが示されています。1980年代のRCT(low quality)では、黄体期のhCG投与の有無に関わらないクロミッド卵巣刺激もしくは自然周期でのタイミング治療にてクロミッド群の妊娠率が高いとしている論文が唯一ありますが、統計的に優位でもなく分娩率までも追っていません(4周期の妊娠数 クロミッド群:10/76 、自然周期群: 4/72、P=0.16)。クロミッドとレトロゾールのタイミング法を比較したRCTでは、臨床妊娠率や多胎妊娠のリスクに差がないと判断されています(臨床妊娠率:レトロゾール11.1%、クロミッド12.1%、P=NS;多胎妊娠率:レトロゾール8.3%、クロミッド9.1%、P=NS)。

②クロミッドを用いた法は妊娠・出産率改善が見込まれるため、原因不明不妊症の治療法として推奨されるが、多胎率の管理が重要とされている

原因不明不妊症の人工授精治療にてクロミッドの有用性を数多くのRCTとシステマティックレビューで評価していますので妊娠率・生産率に寄与するのは間違いなさそうです。それでもクロミッドを用いた人工授精で妊娠しない場合、体外受精を奨めるのかレトロゾール、低用量ゴナドトロピン療法を勧めるのかはいつも悩むところです。治療成績に差がないことから卵巣刺激のそれぞれの作用機序も違いますし薬剤を切り替えた人工授精を行うのも選択肢かもしれませんね。
②-1:クロミッドを用いた人工授精とレトロゾールを用いた人工授精の妊娠率の比較です。4つのRCTと2つシステマティックレビューでは妊娠率に差は認めてありません。
②-2:7つのRCTでは、低用量ゴナドトロピン(1日150IU未満)を用いた人工授精とクロミッドを用いた人工授精を比較しています。低用量ゴナドトロピンの方が、妊娠率が高いという報告もありますが、ほとんどの論文では妊娠率・出産率に差がないという結論になっています。

①: Reference
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Agarwal S. Indian J Med Res 2004
Badawy A. Acta Obstet Gynecol Scand 2009
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Hughes E.  Cochrane Database Syst Rev 2010
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②-1: Reference
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②-2: Reference
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Erdem M. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2015
Peeraer K.  Hum Reprod 2015

文責:川井清考(院長)

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