英国におけるPGT-Aの生殖結果(論文紹介)

2015年Changらは、米国の2011~2012年SARTデータベースからPGTの結果を発表し、PGT-Aの5,471周期とPGT-Aでない体外受精の97,069周期を比較して、生児出産のオッズの上昇を報告しましたが(aOR 1. 43; 95% CI, 1.26-1.62)、母体年齢が37歳以上(aOR 1.43)、35~37歳(aOR 1.13)のPGT-A患者では移植1回あたりの生児分娩のオッズが上昇しましたが、母体年齢が35歳未満(aOR 0.82)では上昇しませんでした(Chang J, et al. Fertil Steril. 2016)。
英国では「PGT-Aが有効または安全であるという証拠はない」とするステートメントを出しており、体外受精あたりのPGTの割合は米国では13~27%がPGT-Aであるのに対し英国では2%未満となっています。
今後、日本国内でも普及していくと思いますが、そのうえで非常に重要な英国のPGT-Aの現状成績をふまえた報告です。

≪論文紹介≫

Kathryn D Sanders, et al. J Assist Reprod Genet. 2021.DOI: 10.1007/s10815-021-02349-0

英国のHuman Embryology and Fertilization Authority(HFEA)における2016~2018年のデータベースを用いて胚異数性のための着床前検査(PGT-A)を行った場合と行わなかった場合に報告された、生児出生およびその他の転帰(総周期数、胚移植を実施できなかった周期数、移植あたりの胚数、移植胚あたりの生児出生率、治療周期あたりの生児出生率)を調べることを目的としたレトロスペクティブなコホート研究です。母親年齢でグループ分けした以外は、それ以上の交絡因子をコントロールせず、新鮮および凍結融解胚移植を対象としました。

結果:
データが得られた190,010周期のうち2,464周期がPGT-Aでした。移植胚あたりの生児出生率、治療周期あたりの生児出生率(移植を行わなかった周期を含む)は、PGT-Aは非PGT-Aに比べて、すべての年齢層(35歳未満を含む)で有意に高く、PGT-A後には、ほぼすべての単一胚移植が行われ、特に母親年齢が40歳を超える周期では、生児出産1人あたりの移植回数が減少しました。
結論:
このレトロスペクティブ研究は、移植胚あたりの生児出生率、治療周期あたりの生児出生率はPGT-Aのアドバンテージを示していますが、他の交絡因子を今回の論文では除去できていません。ただし、HFEAが「PGT-Aが有効または安全であるという証拠はない」とするステートメントは再検討することを考慮する時期と考えられます。

≪私見≫

現時点では、PGT-Aの多施設共同二重盲検無作為化対照試験は1件しか報告されていません。その胚盤胞生検を行い、NGSベースのPGT-Aを実施しガラス化凍結融解胚移植を行ったSTAR試験(Munné S, et al. Fertil Steril. 2019)では、PGT-Aと非PGT-Aの各周期の妊娠20週までの継続率に差がありませんでした。しか母体年齢別にみると、35~40歳のポストホック分析では、PGT-Aは非PGT-A周期に比べて胚移植1回あたりの妊娠継続率が51% vs. 37%と有意に増加しています。
現在国内では反復流産患者を対象としたPGTの実用化にむけて話がすすんでいますが、その他に関しても導入に慎重な意見交換が必要と考えています。

文責:川井清考(院長)

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