タイミング治療妊娠に影響する予測因子は?(論文紹介)

当院でもタイミング治療より患者様にお勧めすることが多いですが、不妊治療は適切なタイミングに介入をしないと時間だけが経過し、妊娠に対してネガティブな要素になり兼ねません。体外受精でのデータなどは論文でも数多くみかけるのですが、不妊クリニックに通うタイミング治療での妊娠・出産率の報告は、実はあまりありません。タイミング治療妊娠に影響する予測因子を検討した報告をご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

So Hyun Ahn , et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2021. DOI: 10.3389/fendo.2021.650883

超音波検査を用いたタイミング治療を行う不妊症カップルにおいて、妊娠予測因子を明らかにし、累積妊娠率と生児出生率を評価することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。
2017年1月- 2019年10月に超音波検査を用いた夫婦生活を行う不妊症女性285名854周期を対象としました。臨床妊娠率は、1カップルあたり28.1%(80/285人)、1周期あたり9.4%(80/854人)でした。妊娠女性は非妊娠女性に比べて、BMIが高く、排卵障害の割合が高く、不妊期間が短く、血清FSH濃度が低く、AMH濃度が高くありました。不妊原因として、不妊期間が長いこと(24カ月以上 vs. 12カ月未満、オッズ比:0.193、95%CI:0.043-0.859)、子宮内膜症(vs. 排卵因子、オッズ比:0.282、95%CI:0.106-0.746)は、臨床妊娠に悪影響を及ぼしていました。サブグループ解析では、35歳以上の高齢(vs. 35歳未満、オッズ比:0.279、95%CI:0.083-0.938)、24カ月以上の長い不妊期間(vs. 24カ月未満、オッズ比:0.182、95%CI:0.036-0.913)、BMI>25kg/m2(vs. <25kg/m2、オッズ比:3. 202、95%CI:1.020-10.046)、排卵が定期的にあるカップルでは不妊期間が24カ月以上(対24カ月未満、オッズ比:0.185、95%CI:0.042-0.819)であることが、妊娠の独立した有意な予測因子でした。累積妊娠率は最初の3周期で高く6周期目まで増加傾向にありました。6周期目以降は妊娠率の増加につながりませんでした。累積出産率は、最初の3周期で高く4周期目まで増加傾向にありました。5周期目以降は妊娠率の増加につながりませんでした。
結論:
不妊期間が長い女性や子宮内膜症による不妊症の女性は、超音波を用いたTIでの治療成績が悪いことを示しているのかもしれません。超音波を用いたTIの4周期目または5周期目までに妊娠に至らなかった女性は、次の治療戦略への移行を検討することをお勧めします。

今回の対象夫婦:
①6カ月以上の不妊期間がある夫婦
②27歳から43歳の女性(平均33歳 BMI 22程度)
③無精子症や重度の乏精子症(総運動精子数1000万個未満または正常形態精子2%未満)は除外
④月経周期は24~38日、ばらつきが20日以内を排卵障害なしと定義
⑤子宮因子は6cm以上の子宮筋腫や子宮内腔の圧排、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなど
⑥子宮内膜症は、超音波検査または腹腔鏡検査で診断
⑦男性因子は4週間の間隔をおいて少なくとも2回の精液分析で、精子数<15×106/mlまたは運動率<40%または正常形態精子<4%
⑧③-⑦を除外した症例を原因不明としています。

≪私見≫

妊娠できるカップルの約85〜90%が1年以内、ほとんどが6ヵ月以内に妊娠しています。どの報告をみてもタイミングで妊娠できる人はタイミング法6周期以内に妊娠しているので、基本はタイミング6回程度で妊娠しない場合は若くてもステップアップが好ましいと考えられます。
Wang X, et al. Fertil Steril. 2003.
Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2003
Hilgers TW, et al. Pope Paul VI Institute Press. 1991
Gnoth C, et al. Hum Reprod. 2005

内膜症がある症例、不妊期間が長い症例はあまりタイミング治療を長引かせるメリットはないかもしれません。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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