EmbryoGlueの凍結融解胚移植での有効性(論文紹介)

着床には胚移植時の培養液の組成が重要であると考えられて接着化合物について多くの研究がなされています。ヒアルロン酸はヒト子宮内膜に存在する主要な高分子の一つであり、増殖期中期から分泌期後期にかけてピークを迎えることから着床に重要な分子であることが示唆されています。
Cochraneのメタアナリシスでは、0.5 mg/mLの濃度でヒアルロン酸添加した培養液を使用することにより、体外受精における出生率が向上すると結論づけています(OR 1.41; 95%CI 1.17-1.69; 6件の研究; n = 1,950)。このエビデンスは中程度の質とされていて、ほとんどの研究は新鮮胚移植周期で実施されています。
凍結融解胚移植のデータは非常に限られていてCochraneで取りあげた4つの研究では、凍結融解胚移植後の臨床妊娠率(OR 1.14、95%CI 0.77-1.69、n=506)や生児出生率(OR 0.97、95%CI 0.52-1.80、n=163)に差を認めませんでした。
(Bontekoe S, et al. Cochrane Database Syst Rev 2014)
今回、新しく凍結融解胚移植のヒアルロン酸添加培地の効果について比較した質の高い研究報告が出てきましたのでご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Sofie Shuk Fei Yung, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.015
凍結融解胚移植の生殖医療成績をヒアルロン酸添加移植用培地と標準培地で差があるかどうか、2つの不妊治療施設で無作為化、二重盲検、対照試験を行いました。
対象者は体外受精を実施した43歳未満の女性とし、ヒアルロン酸濃度0.5mg/mLのEmbryoGlue群、ヒアルロン酸濃度0.125mg/mLのG-2群に割り振りました。
使用した培地は、Vitrolife社のもので、EmbryoGlueはG-2から開発されたHA添加量を増やした胚移植用の培地です。この2つの培地の主な違いは、EmbryoGlueのヒアルロン酸濃度が高いことです(0.5 vs. 0.125 mg/mL)。さらに、EmbryoGlueには2.5mg/mLのリコンビナントヒト血清アルブミンが含まれており、G-2には10mg/mLのヒト血清アルブミンが含まれています。
結果:
2016年4月から2018年4月までに550人の女性をリクルートしintention-to-treat分析を行いました。2群の患者・治療背景は類似していました。mbryoGlue群とG-2群の出生率は同程度でした(25.5% vs. 25.8%、RR 0.99、95%CI 0.74-1.31)。臨床的流産と多胎妊娠の割合も2群間で同程度であり、出生時体重はG-2群よりもEmbryoGlue群の方が有意に高くなりました。
ロジスティック回帰の結果、ヒアルロン酸濃度の培養液により出生率に差を認めませんでした。

≪私見≫

当院でも胚移植時は2021年現在 全例EmbryoGlueを用いています。今回の結果を通して科学的根拠としては新鮮胚移植ではEmbryoGlueが有効、凍結融解胚移植では効果なしという方向性になりそうです。もう一つ面白いのはEmbryoGlue群の方が、出生体重が大きいことです。これは過去の報告でも同様の結果です。原因はわかっていませんが、注視していこうと思います。

余談になりますが、この論文 サブグループ解析で凍結融解胚移植周期の成績ですが、排卵周期の方がホルモン補充周期より優位に生殖医療成績が改善しています。その他に成績が改善している項目は女性年齢・胚盤胞移植・良好胚移植と皆が納得できる項目であり、それと同等に排卵周期の胚移植の有用性がみとめられてきたのはホルモン補充周期が多い日本の内膜調整も見つめ直す時期になってきているのかもしれません。
過去の報告ではホルモン補充周期も排卵周期も成績が変わらないことになっていますが患者様に適した移植方法を個別化していく必要を最近強く感じています。

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当院の胚移植に関するブログ

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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