コロナウイルスが精子の凍結保存に及ぼす影響(論文紹介)
コロナによる感染が拡大してから、妊娠に対する悪影響が危惧されてきました。医師部門からも記事がいくつか出ていますが、妊婦さんはワクチン接種を受けても問題ないこと、また、ワクチン接種は男性の精液所見に影響しないこと等が報告されています。
今回はコロナウイルスと体外受精における精子の凍結保存に及ぼす影響について述べた論文を紹介します。
Anifandis, George, Tyl H. Taylor, Christina I. Messini, Katerina Chatzimeletiou, Alexandros Daponte, Dimitrios Ioannou, and Helen G. Tempest 2021. "The Impact of SARS-CoV-2 on Sperm Cryostorage, Theoretical or Real Risk?" Medicina 57, no. 9: 946. https://doi.org/10.3390/medicina57090946
凍結保存とウイルスで問題になるのは、凍結保存タンク内での伝染です。凍結保存には一般的に液体窒素が用いられます。具体的に言いますと、感染症をお持ちの患者さんの検体と同じタンクに保管された感染症のない患者さんの検体にウイルスが液体窒素を介して伝染しないかという問題になります。
現在のところ、体外受精用に保管された検体において、液体窒素を介した感染は報告されていません。今回発表された論文においても、現在のところ、液体窒素を介してコロナウイルスが伝染された報告はされていないことが報告されています。
患者さんからお預かりする検体は検査時に感染症『陰性』であっても潜伏期間中に検査をしている可能性もあります。したがって、患者さんの検体および我々医療従事者の安全性を守るためにも、このことを一時も忘れずに丁寧に検体の取り扱いをすることが何よりも大切です。
今回紹介した論文はそういった大事なことを今一度思い起こさせてくれるものでした。
引き続き、丁寧な操作を心掛け、コロナと体外受精に関する新しい論文が発表されましたら紹介したいと思います。
文責:平岡謙一郎(培養室長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。