肥満を伴わないPCOS患者でも妊娠率は低下する?(論文紹介)

肥満は妊娠転帰不良の独立した危険因子であることが報告されており、PCOS患者の一定数は体重過多、あるいは肥満があるため妊娠率の低下につながると懸念されていました(Metwally et al, 2008, Metwally et al, 2010)。
しかし、アジアでは痩せ型のPCOS患者が一定数おり肥満を抜きにしても胚の染色体異常や胚移植成績の悪化があるかどうか気になるところです。
このあたりを調査した報告がでてきましたのでご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Lu Luo, et al. Reprod Biomed Online. 2017. DOI: 10.1016/j.rbmo.2017.07.010
PCOS患者は、非PCOS患者に比べて流産率が高いことが報告されています。
PCOS患者の流産に胚の異数性がどの程度関与しているかは、まだわかっていません。1対3のマッチドペア研究では、年齢、BMI、胚のスコアをマッチさせた67名の痩せ型PCOS患者と201名の対照者(ともに女性平均年齢30歳前後)が、正常核型胚盤胞移植を実施し、臨床妊娠率、流産率、出生率を比較・検討しました。
流産および出生率に関連する因子をさらに評価するために、ロジスティック回帰分析を行いました。
結果:
臨床的妊娠率は、PCOS群で50.7%、対照群で55.2%でした。流産率は対照群と比較してPCOS群で有意に増加しました(P=0.029)。非PCOS患者はPCOS患者と比較して生児出生率が有意に高くなりました(P<0.001)。
結論:
PCOS女性は、BMIや受精卵の染色体異常とは別に、流産のリスクを高める可能性があります。患者様の卵巣刺激はGnRHアゴニスト法もしくはGnRHアンタゴニスト法、凍結融解胚移植の内膜調整はホルモン補充周期下で実施され、黄体補充はプロゲステロンの筋肉注射で実施しP+6に胚移植しています。

≪私見≫

この論文では、痩せ型の場合でも、PCOS患者は正常核型胚を戻しても妊娠継続率が低いことを示しています。いくつかのヒトおよび動物実験で、PCOS子宮内膜の脱落膜化が損なわれていることが示されています(Kim et al, 2000, Piltonen et al, 2015, Savaris et al, 2011)。ヒトPCOS子宮内膜の遺伝子発現解析では、プロゲステロン抵抗性が認められ(Kim et al, 2000, Savaris et al, 2011)、ステロイド受容体シグナルとインスリン抵抗性などの内分泌障害との関連性の可能性が示唆されています(Fornes et al, 2010, Li et al, 2015)。
この論文では黄体補充はプロゲステロン筋注で実施しており、血中プロゲステロン濃度は維持されているので、プロゲステロン濃度に依存しない妊娠を阻害する因子があるんだと思います。この論文では以前紹介した論文同様、PCOS患者での受精率の低下や胚の染色体異常は上昇していません。

文責:川井清考(院長)

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