PCOSって卵子の質に影響する?(着床前スクリーニングの観点から)

「PCOS患者の体外受精での受精卵の染色体異常は増えるかどうか?」については、皆が疑問に思うところなので、たくさん論文ヒットするかと思ったら実はほとんどありません。PCOS患者の流産率が高いのは受精卵の染色体異常が高いからかどうかを調べる論文は大きく分けて二種類の方法で調べられています。一つは流産検体の流産絨毛の染色体検査をして異数性の割合を見る方法です。こちらは前回のブログで紹介いたしました(PCOSって卵子の質に影響する?(染色体異常:流産検体の観点から)。もう一つの方法は体外受精で獲得した受精卵を着床前診断で調べる方法です。
後者の報告は更に数がありません。比較的古い報告ですが、分割期胚のFISH法を用いた解析で差がないという報告がありましたのでご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

Andrea Weghofer, et al. Fertil Steril. 2007. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2006.12.018
調節卵巣刺激(ロング法・ショート法)を実施した27~45歳の女性174名(74名:PCOS、100名:非PCOS)を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。
FISH法を用いて分割期胚にて着床前遺伝子診断(X、Y、13、15、16、17、18、21、22番染色体)を実施しました。評価指標として胚形態、体外受精周期成績、異数性率を検証しました。
結果:
PCOS女性は、非PCOS女性と比較して、全体的に同程度の割合の異数性胚を示しました(49.1%±28.1% vs. 51.8%±30.1%)。しかし、PCOS女性の回収卵子数は非PCOS女性にくらべて多くなりました(22.8±9.8個 vs.16.5±7.6個)。その結果、正常核型の有効胚数も3.3±2.1個 vs. 2.4±2.0個とPCOS女性の方が多くなりました。女性年齢(38歳未満 vs. 38歳以上)と回収卵子数(10〜20個 vs. 20個以上)で層別化しても傾向は変わりませんでした。

≪私見≫

この論文では36歳平均、卵巣刺激のtotal HMGが2,100-2,500単位程度なので、私たちが目の当たりにする症例分布に比較的近いと思います。割期胚のFISH法を用いた解析であるので、現在の次世代シーケンサーを使った解析より精度は落ちますが、十分納得できるデータであるような気がします。ただ、この論文でも、PCOS女性は非PCOS女性に比べて正常胚を戻しても妊娠率、妊娠継続率ともに低い傾向にありました(妊娠率: 42.9% vs. 69.0%、妊娠継続率 40.5% vs. 65.5%)。これらのことからやはり正常胚を移植しても着床率を低下させる要因がPCOS患者にはあることが示唆されます。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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