オキシトシン受容体アンタゴニスト製剤(ノラシバン)の子宮に与える影響(論文紹介:その2)
オキシトシン受容体拮抗薬によりオキシトシン受容体の活性化を阻害することで、子宮収縮を低下し、子宮内膜血流を増加させ、子宮内膜の脱落膜化や子宮内膜受容能を高める可能性があることがいくつかの臨床試験で報告されています。
胚移植の4時間前にノラシバン900mgを単回経口投与することで、妊娠率は上昇するか?ということに対して行われた3つの臨床試験のメタアナリシスをご紹介いたします。
≪論文紹介≫
G Griesinger, et al. Hum Reprod. 2021.DOI: 10.1093/humrep/deaa369
2015年から2019年の間に1,836人の被験者を無作為化した3つの無作為化二重盲検プラセボ対照試験の分析です。3つの試験の個々の参加者データのメタアナリシスの結果と個々の試験の事前に指定された分析結果を記載しています。
参加者は、欧州11カ国の60の不妊センターで体外受精治療中の38歳以下、過去に着床不全を認めていない女性を対象としました。ノラシバン900mgの単回経口投与(n=846)またはプラセボ(n=864)に無作為に割り付けました。
臨床試験 1では、ノラシバン100mg、300mg、900mg、プラセボ群で妊娠率と妊娠喪失率を比較しています。この研究ではSET(単一胚移植)、DET(2個胚移植)が混じっている状況でした。
臨床試験 2ではノラシバン900mg、プラセボ群で新鮮単一胚移植day3胚とday5胚で比較検討。臨床試験 3ではノラシバン900mg、プラセボ群で、新鮮単一胚移植day5胚で比較検討しています。
妊娠判定は血清中hCG濃度を4w0dに実施し、妊娠陽性となった女性については、妊娠6週(臨床的妊娠)および妊娠10週(妊娠継続中)に超音波検査で実施しました。妊娠中の患者は、母体の有害事象、周産期結果(分娩時週数、分娩方法、多胎率)、新生児情報(性別、体重、身長、頭囲、アプガースコア、先天性異常、母乳育児、ICUへの入室、黄疸、RDSなどの特定の疾患)の転帰について追跡調査されています。
結果:
メタアナリシスではノラシバン900mgの単回経口投与は、プラセボと比較して、妊娠継続率の絶対値が5.0%(95%CI 0.5~9.6)、出生率の絶対値が4.4%(95%CI 0.10~8.93)増加しました。Day3またはDay5胚移植でも同様の増加が認められましたたが、プラセボ群との有意差はありませんでした。薬物動態の観点から曝露量の増加と妊娠との間に相関関係が認められました。
結論:
3つの臨床試験のメタアナリシスでは、ノラシバン900mgの単回経口投与は、絶対的に5%(相対的に15%)の継続妊娠率の増加と関連していました。
≪私見≫
この研究に参加された方は事前に移植当日撮影した経膣超音波映像において、少なくとも1.5回/分の子宮収縮が認められることを必要としています。子宮収縮は、経膣超音波による子宮の矢状面の6分間のビデオを撮影し20倍速で評価しています。なかなか超音波6分も行い続けるのは患者様も辛いですよね。
ノラシバン900mgを使用すると使用前に比べて子宮収縮が13%低下するようです。それにより妊娠率が上昇、妊娠判定後の生化学妊娠率もしくは流産率が低下するなら行う価値がありそうです。
文責:川井清考(院長)
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