オキシトシン受容体アンタゴニスト製剤(ノラシバン)の子宮に与える影響(論文紹介その1)
胚移植時の子宮収縮が着床に悪影響を及ぼしているという仮説から登場したのがオキシトシン受容体アンタゴニスト製剤(ノラシバン: nolasiban)です。
ノラシバンは経口薬であり、薬物動態上の半減期が約12時間であるため、単回投与後に最大2日間の効果が期待でき、子宮収縮抑制および子宮内膜血流の増加効果から胚移植による着床能の改善に寄与することが考えられます。
現在までにIn-vitroおよびin-vivo研究により、ノラシバンが自発的およびオキシトシン誘発性の子宮収縮および炎症反応を抑制することが示されています(Kimら. 2017、2019)。また臨床治験では、胚移植の約4時間前にノラシバンを単回経口投与することで、妊娠率と生児出生率が改善することが報告されています(Tournayeら. Visnovaら、2018)。
ノラシバンが子宮収縮、子宮内膜灌流、子宮内膜mRNA発現にどのような影響を与えるかを調べた論文をご紹介いたします。
≪論文紹介≫
Piotr Pierzyński, et al. Reprod Biomed Online. 2021. DOI: 10.1016/j.rbmo.2021.01.003
ノラシバンを用いた無作為化、二重盲検、並行群間で作用機序をみる研究です。
45名のボランティア女性の胚盤胞移植日に相当する日に、プラセボ群、ノラシバン900mgまたはノラシバン1800mgを投与し、超音波による子宮収縮頻度と子宮内膜灌流を評価、子宮内膜生検をおこない遺伝子発現を次世代シーケンサで分析しました。
結果:
ノラシバン900mg、1800mg共に子宮収縮頻度の低下と子宮内膜灌流量の増加を示しました。1800 mg投与では、10個の子宮内膜遺伝子(DPP4、CNTNAP3、CNTN4、CXCL12、TNXB、CTSE、OLFM4、KRT5、KRT6A、IDO2)が有意に異なる発現を示しました(adjusted P<0.05)。OLFM4、DPP4、CXCL12は着床窓、DPP4、CXCL12、IDO2は脱落膜や子宮内膜受容能と関連する遺伝子でした。
結論:
これらの結果は胚移植による妊娠率を上昇させるためにノラシバンの有効性を示す結果となっています。ノラシバン1800mgの効果が900mgと比較してより顕著であることを示唆しており、高用量の試験を行うことを支持する結果となりました。
≪私見≫
日本で慣習的に胚移植時に使われているダクチル®︎に代わる新規薬剤に対する報告です。ゆくゆくは国内でも使用できるようになると思っていますが、新規薬剤の国内での普及はタイムラグがあります。今後も海外での臨床報告を注視したいと思います。
ともあれ、胚移植成績の改善には子宮収縮を抑制し子宮血流を増加させることが良いのは間違いなさそうです。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。