子宮の蠕動運動は、胚移植の成績に影響するか(論文紹介)

胚移植後の妊娠率に子宮の蠕動(ぜんどう)運動が影響を与えていると考えられています。
それに伴い、慣習的にダクチル®️が使われていたり、新薬の開発がされたりしています。子宮の蠕動運動は排卵前に多く、排卵後に減少する傾向にあります(Ijlandら, 1997、Bullettiら, 2000)。プロゲステロンには子宮蠕動運動を抑制する作用があることがわかっています(Fanchinら, 1998、Muellerら, 2006、Zhuら, 2012)。
子宮の蠕動運動は胚移植の成績と関連があるのか、胚移植周期(新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植)で子宮の蠕動運動頻度は異なるのかは皆さんが興味ある部分だと思います。
関連する論文をご紹介させていただきます。

≪論文紹介≫

L Zhu, et al. Hum Reprod. 2014. DOI: 10.1093/humrep/deu058
292名の体外受精患者を対象に、2013年3月から2013年8月にかけて実施された前向きコホート研究です。ロングプロトコールを用いた卵巣刺激後の新鮮胚移植(n=166)、排卵周期下凍結融解胚移植(n=69)、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植(n=57)で子宮蠕動頻度と妊娠率の関係を評価しました。
各移植ともに初期分割期胚を2個移植実施しています。子宮蠕動の経膣超音波検査は、胚移植の約1時間前に矢状断で子宮蠕動の5分間のビデオを記録しました。記録動画は 2人の観察者によって4倍速で観察しています。

結果:
ほとんどの患者の胚移植前の子宮蠕動頻度は1.1~3.0波/分でした。
臨床妊娠率は<2.0波/分の時に最も高く、波数の増加と共に低下し、特に>3.0波/分では劇的に低下しました。非妊娠患者群の子宮蠕動頻度は、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植のいずれの周期においても、臨床妊娠患者群よりも高い結果となりました。ロジスティック回帰分析により、胚移植前の子宮蠕動頻度と臨床的妊娠との関連していることが示されました。(オッズ比:0.49、95%CI:0.34-0.70、P < 0.001)。
結論:
胚移植前の子宮蠕動頻度は、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植での臨床妊娠率と負の相関があります。

≪私見≫

この論文の大事な論点は胚移植前の子宮蠕動頻度は臨床妊娠率を関連がある。新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植のどの胚移植方法でも関連があった点です。
プロゲステロンは子宮蠕動頻度を減らすことがわかっていますが、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン補充周期下凍結融解胚移植でプロゲステロン濃度が違うものの子宮蠕動頻度には差がみられませんでした。
彼らは二つの仮説を立てていて、ある一定のプロゲステロン濃度になった場合のみ子宮蠕動頻度が増加するのであって過剰投与をしても減少しない可能性、内因性プロゲステロンの方が子宮蠕動頻度と強い相関がある可能性を提示しています。ともに面白い着眼点で、子宮蠕動頻度が過剰な場合はプロゲステロンの増量ではなく、その他の方法で抑制をかけることにより妊娠率を向上させるのかもしれません。

文責:川井清考(院長)

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