男性年齢は体外受精の妊娠率に影響する?(論文紹介)

男性年齢が体外受精成績に及ぼす影響に関しては小規模な報告は複数でていますが、大規模報告は認めていませんでした。男性年齢が体外受精結果に及ぼす影響は女性年齢にマスクされてしまうため、どうしても小規模報告だと女性年齢に影響を受けている部分をぬぐいされないからです。
米国の体外受精データを用いたレトロスペクティブですが大規模スタディがでてきたのでご紹介いたします。

≪論文紹介≫

Audrey M Marsidi, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.03.033
2017年に米国で実施され、Society for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcome Reporting System(SART CORS)に報告された、卵子提供ではない体外受精周期を対象としました。SART CORSは米国で体外受精を実施している全周期の90%、全クリニックの75%からの包括的なデータを含むサーベイランスデータです。2017年からは男性情報の入力も必須となっています。
主要評価項目は、体外受精周期および胚移植周期別の妊娠、20週以上の出生、20週未満の流産としました。副次評価項目は,単胎妊娠と双胎妊娠の37週以上の出生としました。修正ポアソン回帰法を用いて、男性年齢と周期および周産期の転帰との関連を、全体および女性年齢で層別して解析しています。
結果:
体外受精77,209周期のうち、平均男性年齢は37.8±6.3歳、平均女性年齢は35.5±4.6歳でした。男性年齢が45歳以下の場合と比較して46歳以上の場合、女性年齢やその他の交絡因子で調整した後の結果では、妊娠率については、体外受精周期あたりの妊娠率が低く(aRR 0.81; 95%CI 0.76-0.87)、移植あたりの妊娠率も低くなりました(aRR 0. 85; 95% CI 0.81-0.90)、出生率については体外受精周期あたりの出生率が低く(aRR 0.76; 95% CI 0.72-0.84)移植あたりの出生率も低くなりました(aRR 0.82; 95% CI 0.77-0.88)。35歳未満の女性に限定すると男性年齢により出生率や流産率に差は認められませんでした。生児誕生率と流産率に有意な差は認められませんでした。
結論:
男性年齢が45歳以下の場合と比較して46歳以上の場合、体外受精での妊娠率・出生率が低下することがわかりました。男性年齢は女性年齢が35歳以上のカップルで影響が顕著であることもわかりました。

≪私見≫

これまでの同様の報告は複数あります。
体外受精221周期で男性年齢 35歳以下、36-39歳、40歳以上で妊娠率の低下を示した報告(Klonoff-Cohen HS, et al. 2004)、体外受精1938周期で男性年齢40歳以上の場合、30歳未満の場合に比べて妊娠率の低下を示した報告(de La Rochebrochard E, et al. 2006)、卵子ドナー1023周期を用いて胚発育をみて、男性年齢50歳以上の場合、出生率が低く、流産率が高くなることを示した報告(Frattarelli JL,et al. 2008)、卵子ドナー周期を用いて男性年齢50歳以上の場合、受精率が低く、異常分割が高くなることを示した報告(Dviri M, et al. 2020)

反復流産は米国生殖医学会・米国泌尿器科学会のガイドラインで男性側精査を行うことが推奨されていますが、流産に関して男性年齢が影響する、しないについては議論が分かれています。これからも男性年齢との妊孕性との関係をフォローしていきたいと思います。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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