新型コロナワクチンが女性に不妊症を引き起こすという風評被害(論文紹介)

新型コロナワクチンが女性に不妊症を引き起こすという誤った情報がソーシャルメディアで拡散された結果、不妊女性においてワクチン接種を躊躇する、という動きが高まっています。事の発端は新型コロナウイルスのスパイクタンパクと、着床に重要なタンパクsyncytin-1が類似しているとされたからです。
syncytin-1は受容体に結合すると、着床に不可欠なsyncytiotrophoblastの融合を促進します。syncytiotrophoblastの形成が阻害されると、着床不全や流産や妊娠高血症で見られる胎盤異常を誘発する可能性があります。
論文では、スパイクタンパクとsyncytin-1の類似性はアミノ酸配列的にも大きさ的にも高くなく、新型コロナウイルス感染もしくは新型コロナウイルスワクチン接種で産生された抗体3000種類にはsyncytin-1に反応するものはなかったことが報告され、「新型コロナワクチンが女性に不妊症を引き起こす」という噂は風評被害であったことは間違いないと思います。ただ、臨床成績で本当に差がないかどうかが大事ですよね。
比較した論文をご紹介いたします。

≪論文紹介≫

F S Rep. 2021.Randy S Morris. DOI: 10.1016/j.xfre.2021.05.010
2021年1月1日から2021年5月7日まで初回の143回のホルモン補充周期下の凍結融解単一胚盤胞移植を解析対象としました。
新型コロナワクチン(ファイザー社・モデルナ社)による抗体陽性例、新型コロナ感染による抗体陽性例、抗体陰性の間の着床率を比較しました。血清hCGによる着床率や妊娠率、妊娠継続率には、3つのグループ間で差は認められませんでした。また正常核型胚の移植成績での67症例でも同様に差を認めませんでした。COVID-19ワクチンや病気が女性の不妊症を引き起こすことはなさそうです。

着床率(移植1回あたりのhCG陽性率)
抗体陰性(73.9%)
新型コロナワクチンによる抗体陽性(80.0%)
新型コロナ感染による抗体陽性例(73.7%)

胎嚢確認
抗体陰性(62.5%)
新型コロナワクチンによる抗体陽性(65.7%)
新型コロナ感染による抗体陽性例(52.6%)

妊娠継続率
抗体陰性(52.3%)
新型コロナワクチンによる抗体陽性(65.7%)
新型コロナ感染による抗体陽性例(47.4%)

正常核型胚の移植も67件行われており、着床率、臨床妊娠率、妊娠継続に差がありませんでした。

≪私見≫

「新型コロナワクチン接種が女性に不妊症を引き起こさない」のは事実だと思っています。未知のものには恐怖を感じるのは当然のことです。新しい医療を導入するときも私自身、慎重派ですので患者様のSNSに煽られる気持ちを少しでも解消されるきっかけになれば嬉しいです。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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