自然妊娠と体外受精妊娠、どっちが流産多いの? (論文紹介)

みなさんは、「自然妊娠と体外受精の流産率って、どっちが高いの?」という疑問がありませんか? 実は、答えがわかっていません。
体外受精の方が自然妊娠に比べて、軽度ですが他の周産期合併症(前置胎盤、癒着胎盤、妊娠高血圧症候群、 輸血、ICU入室、早産) は増加します。私は自施設のデータをとるまでは、「体外受精の方が自然妊娠に比べて妊娠率が上がるので、流産率も上がるでしょ」と思っていました。過去の文献では、体外受精の流産リスクが自然妊娠よりも20±34%増加している可能性を示す論文、差がないという論文など様々です。
意外と知られていない自然妊娠流産と体外受精流産の比較でよく引用される論文をご紹介します。

≪論文紹介≫

①流産リスクに差がないというときに引用されている論文

Schieve LA, et al. Obstet Gynecol. 2003. DOI: 10.1016/s0029-7844(03)00121-2.

1996~1998年に米国で体外受精妊娠した62,228症例の流産率と15~44歳の米国女性を対象とした人口ベースの調査であるNational Survey of Family Growthの自然流産率と比較しました。
結果:
体外受精妊娠における自然流産率は変わりませんでした。流産リスクは、凍結融解胚で妊娠した場合に増加し、多胎妊娠の場合には減少しました。流産リスクは、過去の流産や体外受精既往がある女性や、クロミフェンやGIFTをおこなった女性で高くなりました。代理出産は流産率が高く、卵子提供の流産率は年齢に影響を受けないことが判りました。

②体外受精流産リスクが上がるというときに引用される論文

Wang JX, et al. Hum Reprod. 2004. DOI: 10.1093/humrep/deh078.

自然妊娠の2つのコホートと比較して、体外受精妊娠の相対的リスクを定量化しました。クリニックで体外受精妊娠した1,945症例、ライフスタイルと妊娠に関する前向き研究での549例の自然妊娠(Fordコホート)、別のコホート(Treloarコホート)での4,265例の妊娠の3つのコホートを研究に用いました。
結果:
年齢調整後の自然流産の相対リスクは、Fordコホートと比較して、体外受精群では1.20(95%CI 1.03-1.46)となりました。体外受精群では流産既往があると流産リスクが高くなること、低刺激であると流産リスクが低くなることが示されました。

≪私見≫

①、②は共に2000年前後の論文で、卵巣刺激がFSH製剤は高用量で投与されていて、新鮮胚移植を複数胚で行われていました。また凍結技術も現在のvitrificationではなくslow freezingが用いられていたでしょうし、胚盤胞凍結や着床前診断などは考えられない時代でした。その頃のデータをもってしても体外受精と自然妊娠群ではほぼ差がありませんので、体外受精によって流産率が上がるというのは思い込みなのかもしれません。
当院のデータでも体外受精が一般不妊群に比べて流産率があがる傾向は認めませんでした。高齢女性では良い胚から戻すというバイアスがあるからでしょうか。
流産率が一般不妊治療群に比べて下がる傾向にありました。もう少し検討していきたいと思っています。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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