GnRHアンタゴニスト法を考える(早発LHサージ)

fixed法/flexible法でディスカッションに上がるのが卵胞発育に伴うLHの上昇とプロゲステロン値の上昇です。ガニレスト投与前に早期LH上昇が見られる女性は適切にアンタゴニスト製剤を使うことにより回収卵子数も減らず、質も担保されることがわかっています。ただしLHを抑制しきれず排卵をしてしまうと採卵は中止になりますし、アンタゴニストを用いてもLH上昇を止められない場合やプロゲステロン値が上昇してしまうと回収卵が減ったり、新鮮胚移植の成績が低下するとされています。
卵巣刺激開始6日目における早期LH上昇の発生率は、リコンビナントFSH(rFSH)の開始用量が225IUの場合は15%(North American Ganirelix Study Group. Fertil Steril 2001)、rFSHの開始用量が150IUの場合は4.3%(European Orgalutran Study Group. Hum Reprod 2000)とされています。
2013年にrFSHによって卵巣刺激を開始した2000名以上の患者を対象に、ガニレスト投与前の卵巣刺激開始時5日目または6日目、またはガニレスト投与中に発生したLH上昇の発生率とその臨床的影響を評価した論文をご紹介します。

≪論文紹介≫

John L Frattarelli, et al.  Reprod Biol Endocrinol. 2013. DOI: 10.1186/1477-7827-11-90.

ガニレスト®︎(ganirelix)をrFSHによる卵巣刺激の5日目に開始した3つの試験(n=961)と、ganirelixを6日目に開始した5つの試験(n=1135)を後方視的に解析しました。
結果:
ガニレスト投与前のLH上昇(LH≧10.0IU/L)の発生率は、ガニレスト投与開始5日目と6日目でそれぞれ2.3%と6.6%(P<0.01)、ガニレスト投与中のLH上昇発生率は、それぞれ1.2%と2.3%(P = 0.06)となりました。LH上昇が5日目または6日目に見られた女性は、卵巣反応が高く、回収された卵子の数が多い傾向にありました(平均±標準偏差、LH上昇あり12.9±8.5 vs. LH上昇なし、10.2±6.4(P < 0.01))。ガニレスト投与前にLH上昇があった女性となかった女性では、妊娠継続率は同じでした(26.0% vs. 29.9%、OR, 0.89、95%CI, 0.55-1.44)。ガニレスト投与中にLHが上昇した女性は、採卵時の回収卵子数が7.5±6.7個と、LHが上昇しなかった場合の10.2±6.4個に比べて低く(P = 0.02)、妊娠継続率も低い傾向にありました(16.7% vs 29.9%; OR, 0.52; 95% CI, 0.21-1.26)。
結論:
早期および後期のLH上昇の発生率は低いですが、ガニレストを卵巣開始時の6日目ではなく5日目で開始することにより、さらに抑制する可能性があります。ガニレスト投与中にLH上昇した場合、妊娠継続の可能性が低くなる可能性があります。

≪私見≫

当院ではGnRHアンタゴニスト法がメインの卵巣刺激法であり、患者様に通院の意味ではご負担をおかけしますが、安定した成績を誇っています。
その上で、採血と卵胞サイズを適宜測り、患者様各々に合った投与量を検証しています。当院でもガニレスト投与前の早発LHサージは、採卵まで実施した患者様の中で LH >10IU/L: 7.4% (37/503)、 LH >20IU/L: 1.4% (7/503)いらっしゃいます。LH >20IU/L となった7名のうち6名はLHサージ上昇とともなった採卵での胚移植(凍結融解胚移植)で臨床妊娠にいたっておりますので、もちろんLH上昇にともなう排卵後などのリスクも説明し、患者様と卵巣刺激キャンセルする選択肢もお伝えした上で、続ける選択肢を提示することが多いです。

文責:川井清考(院長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。

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