GnRHアンタゴニスト法を考える(fixed法?flexible法?)
生殖医療ガイドラインが今後発刊されるにあたり、エビデンスを基にした調節卵巣刺激が重要になってきます。日本では数多く行われているクロミッドFSH法や最近の全胚凍結を前提としたPPOS法も良い刺激ですが、やはり根拠にもとづいた治療で一番中心にある卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト法だと思っています。
GnRHアンタゴニスト法はFSH製剤で卵胞をそだてて途中からFSH製剤使用しながら早発排卵を予防するアンタゴニスト製剤を投与する方法です。
現在使用されているアンタゴニスト製剤には、ガニレスト皮下注0.25mgシリンジ®︎とセトロタイド注射用0.25mg®︎がありますが、1999-2000年に米国、欧州で承認を受け2006年(セトロタイド)、2008年(ガニレスト)から国内で承認・販売されています。特徴は、セトロタイドは凍結乾燥用粉末のため、使うときに自分で調整しなくてはいけない点、ガニレストは液体として既に薬剤が充填されているプレフィルド・シリンジになっているのが大きな違いであり、薬理作用的にはセトロタイドの方がやや最高濃度到達時間が早く(最高濃度到達時間 セトロタイド 1.1 ± 0.6hr vs. ガニレスト 1.62± 0.8hr )半減期が短い(半減期 セトロタイド 5.9 ± 1.4hr vs. ガニレスト 24.1± 6.3hr )傾向にあります。
クラシカルな方法ですがクリニックによって大事にしているTIPSがあり、若干卵巣刺激方法が異なります。
その代表格が採血や卵胞サイズで評価せず卵巣刺激開始6(5)日目からアンタゴニスト製剤を投与するfixed法と卵巣刺激開始後5-6日目に卵胞サイズや採血をみてアンタゴニスト製剤の投与時期を決めるflexible法があります。
日本ではflexible法が主流ですが、fixed法でも成績に差がないとされています。
flexible法とfixed法は車でいうとマニュアルとオートマの違いです、成績が一緒ならfixed法(オートマ)がよいような気がしますが、なぜ日本ではflexible法(マニュアル)が主流なのでしょうか。
flexible法/fixed法の成績に差がないことを報告しよく引用される論文をご紹介します。
≪論文紹介≫
Ernesto Escudero, et al. Fertil Steril. 2004. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2003.07.027
flexible法/fixed法のプロトコールの成績評価をみるためにスペイン、バレンシアで実施された前向き無作為化比較試験です。
r-FSH300単位を投与し卵巣刺激6日目からセトロタイドを投与したfixed法、トップの発育卵胞が平均直径14mmに達した時点でセトロタイドを投与したflexible法を比較しました。2個以上の卵胞が18mm以上になった段階でhCG10000単位をトリガーとして投与し新鮮胚移植を実施しています。
結果:
卵巣刺激に要した日数は両群とも同程度でしたが、セトロタイドの投与日数はfixed法の方が長くなりました。血中エストラジオール濃度とLH濃度は両群とも同様のカーブを描きました。着床率と妊娠率は、flexible法で23.7%と44.4%、fixed法で28.6%と50.9%となりました。(有意差つかず)
≪私見≫
この論文は平均32歳の女性を対象として卵巣刺激期間が10日間で平均17個とれているので卵巣予備能は十二分にある方が対象となっています。flexible法 50例/fixed法 59名に実施しアンタゴニスト法の使用はflexible法 4.3回/fixed法 5.5回とflexible法の方が無駄に投与しなくていいので費用対効果はいいですね。
やはり、現在体外受精を行っている患者様は年齢層が高く卵巣予備能が低下している患者様、また、この時代と異なり胚盤胞移植や全胚凍結が主流となってきておりますので、時代に応じて使い方を適用させていく必要があると思っています。(この論文では新鮮胚移植を2.5個移植して残り2.6個凍結しています。多胎妊娠のリスクが高そうですね。)
当院は現在 患者様の受診できる日程にあわせて9割はflexible法、1割はfixed法を実施しています。
文責:川井清考(院長)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。